むかしのこと、 あるところに男がいた。
時は都が奈良から京都に移る頃。 まだ、京都の都は家がまばらであった。
そんな京都の西の方に、一人の女が住んでいた。 家柄がたいした女ではなかったため、誰一人言い寄る男はいなかったが、 どうしたことか、この生真面目な男は、いつもいつもこの女の元にやって来ては、 女に愛を語った。
女の心根の良さを、知ってのことだったのだろう。
弥生の一日、雨のそぼ降る夜。 男は女に歌を送った。
「起きもせず 寝もせで 夜を明かしては 春の物とて 眺め暮らしつ」
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