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昔のこと、ある男がいた。
東の五条の女のもとに、ひと目を忍んで夜な夜な通っていた。
許されぬ逢引のため、当然正門からは入れるはずもなく、
男は、子どもが悪さをして土の壁にあけた穴から、屋敷の中に入り込んでいた。

人が頻繁に出入りする刻限でもなかったが、度重なったため、とうとうそこの主人に感づかれてしまった。

その通い路は、見張りがつけられてしまった。
夜毎に人を置いて監視させたので、男はそこまで行っても、女に逢うことはできず、帰る日々が続いた。
そしてある夜、とうとう男は自分の気持ちを抑えきれずに、こんな歌を塀の後ろで詠んだ。

「人知れぬ我が恋の通い路を守る関守よ、
毎晩毎晩、どうして寝てくれないのか!
私の苦しい思いを、どうして察してくれぬのか!」

この男は、本当に女を愛している。
その切実な思いを、主人は理解した。
主人は、男を許したのである。

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