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攻撃的効性疑似恋愛(症候群)





 『外』って、どんな所なんだ。



 板の間で壁によりかかったまま座り、なんとも無しに中央で稽古している彼を視線だけで追っていたら唐突に訊かれた。

 訊いてきたのは黒い目、黒い髪。純粋な、純血の日本人。

 世界的・絶滅危惧種としてコロニーに保護されている国土を喪った人々。

 その中でも特殊技能とされる、『舞』を。

 徹底的にその身に叩き込まれ、渇いた砂が水を吸うようにものにした男。

 ものにするだけではなく、新たに育て開花させた。

 外から密入して初めて眼にした時。

 ただのダンスだろう、と。
 『外』で動いていたコロニーを出た日本人たちから聴いた時には思っていた『舞』。


 アレはダンスでは無いと見た瞬間に俺は感じた。

 全身の皮膚がよだつ、悪寒。
 彼の『舞』には何処からも攻め入る隙が無かった。


 スローテンポと感じられる動き。

 なのに死角が無い。

 まるで舞踏よりも武道に近い。隙の無い動きだと感想を述べると呆れたように彼は言った。

「当たり前だ。四方八方からみんなが見てる。人だけじゃない。神様が見てる。
 みんなが見れる動きを魅せるのが『舞』だ」と。

 何を当たり前の事を言っているんだ、と言いたげな表情。
 その顔は存外、幼かった。


 日本のこと、殊に『舞』に関しては深い造詣を持つ彼は。
 俺や『外』の 世界の人間、つまり現代世界の殆どの人間とっては当たり前の事を知らない。


 知識として知っていても、実感を伴わない知識。

 籠の中の、片羽の鳥がコロニーには大勢居る。
 籠の中に居ることに気づくこともなければ、一生を『外』の存在も知ることなく過ごす者も多い。

 『外』の事を知ろうとしない、というのが正しい。

「『外』ってどんなところだ」


 彼のように、『外』の事を聞く者のほうが珍しい。

 道場の板の間。壁に寄りかかるように座り込んだ俺の上から覗き込んできた顔。

 暗い色の眼は、いつも何処かおどけている気配が有る彼にしては珍しく真剣だった。



「…10cm四方の青空と地平線まで見える嘘の青空、どっちが好きだ?」

「何だよ、それ」
「幾ら俺が『外』の空のことを話したところで、お前がたとえ10cm四方でも本物の青空を知らないなら。

 それは地平まで広がる嘘の青空とどこが違う?」

「お前は嘘を言わない」
「俺にとっての嘘を言わないだけだ。俺の言葉がお前にとっての真実とは限らない」

「ふむ、アンタにしては一理あるな…」
「俺にしてはって、何だよ」


 見下ろしたまま言ってくる彼に。

 何となく、むっとしたので軽くパンチを繰り出す。

 拳は手にしていた舞で使う扇子で簡単に受けられ、流された。

 予想していた動き。
 彼の、次の言葉は少し予想外だった。


「『外』に出る」

「…へぇ」
「『外』に出て、本物の空を確かめる

 そして自分の『舞』が世界に通用するものなのか、もっと凄い『舞』は無いか探しにいく」




 たとえ、10cm四方でも。