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7=7
7→1.7

※ 28を踏んでから入ってきてください ※ 









 二度と来ることは無いと思っていたシェバトに再び俺は足を踏み入れた。
 10年前と殆ど変わらない、息をするのが苦しくなるような静寂に包まれたシェバト。空に浮かび漂う島で、彼女に会った。


 場所は旧区の医務室。
 相変わらず埃臭い、静謐な・・・人間の気配のかけらも無い遠い昔に棄てられた場所。

 彼女は変わっていた。

 パッと見は『良妻賢母』の言葉を人間化したような女になっていた。
 10年前の彼女を更に幼くしたような娘と一緒に「また此処を使わなくてはいけない事になりそうだから」と掃除をしている。
 ただ、野生の肉食獣のように足音も立てず、流れるように動くのは変わっていない。

 だからきっと、腕の方も技量は変わっていても鈍ってはいないのだろう。


 10年振りに会って、訊きたい事がいろいろ有ったはずなのに俺は煙草を吸いながら、彼女は娘と一緒に掃除をしながら、話すのは他愛のない事ばかり。

 まるっきり、初めて、たまたま、偶然に出会った者同士のような会話。



「・・・ヒュウガの奴が結婚してる、とは聞いてたが・・・まさか当の嫁さんがこんな美人とは、ね・・・」
「どんな女だと思われていたのかしら?」
「そうさな、アイツみたいな柔らかい物腰で隠し事だの何だのが多い奴の嫁ってなら・・・アイツにまるまる騙されてるか、解ってて協力してる共犯者のどちらかだと思っていたな。

 どっちにしろ、いつも大変なメに会って泣いてそうだと思ってたな」

「泣きませんよ」
「まさか」
「わたしは泣いたりしません。
 泣きたい時は笑うって、決めたんです。昔、ここで」

 そう言って、彼女は微笑した。透明な笑顔だと思った。
 つられて、笑顔が浮かんだ。
 笑顔を浮かべたまま、彼女が問うた。

「ジェシーさん、貴方は・・・泣きたいと思った事は無いのですか?」

「ジェシーでいい。
 そうだな・・・沢山ある」
 沢山、だ。
 暫く家を空けてる間に妻が殺されていた事だとか、家を出ていた間に世話になった奴が死んだ事だの。

「わりと最近のなんかは家に帰ったら『アンタなんか親父じゃない』って息子に言われた事かな。父親らしいことは殆ど何もしなかいでたのも確かだけどな。
 足がついたら色々とヤバイから、家に身元が割れるような身につける物・・・結婚指輪だのなんだのを置いて行ったんだが、指に入らなかったのが決定的だったくさいな。

 ま、喜劇は悲劇の隣に在り、だ。

 泣いたり泣かれるよりもそれをネタに笑い飛ばして生きて行くのが遺された者の意義なんだろうな・・・どうかしたか?」

 彼女の笑顔が消えていた。

「・・・いえ、以前わたしの師事していた方と同じような事を話すのだな、と・・・」

「そうか?」
「ええ」

 こんな会話をしている間も彼女の手は休むことなく、所々に錆の浮いた頑丈さだけが取り柄の鉄製のベッドを使えるように整え、戸棚の中の薬や包帯なんかの道具を使える物、使えない物に選り分けていく。
 大分集まったゴミを捨てに行こうとすると、彼女と一緒にいた娘にコートの端を掴まれた。
 父親譲りらしい、黒檀みたいな吸い込むように深い、黒い眼が真っ直ぐに俺を見上げてきた。

 何か言いたい事があるらしい。
 しゃがんで視線の高さを会わせる。

「父さん達と一緒にソラリスに行くの?」
「そうだ」

「また還って来る?」
「そうだ」
 じっと見つめて、小さく、彼女にそっくりな彼女の娘は言った。

「おじさんたちがついていれば大丈夫?」
「・・・・・・当然だ」
 俺は彼女の頭を左手で撫でた。








 時々、名前を訊かれる事がある。
 俺は相変わらずルールを守っている。

 あの日から名前を訊かれた時はジェシー・リー・ブラックと名乗っている。
 この名前しか使っていない。

 本名ではない。
 だが、偽名でもない。

 ジェサイア・ブランシェの名前は使わない。
 彼の名前・・・ジョシュア・リー・ブラックの名前を使う気にはどうしてもなれなかった。

 左腕は確かに俺の肩にくっついたが、時々自己主張をする。
 拒否反応、と呼ばれる自己主張。

 だから時々免疫抑制剤を飲む。
 ヒュウガのヤツは「ナノマシンでDNAを先輩のデータに書き換えればそんな手間が無くなります」と言った。

 確かに薬を飲まなくてはいけない手間は無くなるだろう。

 俺は彼を取り込んで自分の物にする気が無い。自分色に塗り替える気は無い。今の状態が結構気に入っている。


 今の俺は2人で1人なんだと思う。
 ジァサイアではなく、ジョシュアでもない。

 ジェサイアの身体とジョシュアの左腕。同時に在るが、混ざって1人になるわけでもないような気がする。
 2人で1人分の身体を構成している。
 時々、思考や行動も2人分在るような気がする。
 だから免疫抑制剤を飲む。恐らく死ぬまで飲み続ける。
 2人分の名前が混じったジェシー・リー・ブラックという名前を名乗り続ける。

 多分、死ぬまでずっと、だ。



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