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 外の風景をリアルタイムで室内に投射する投影装置が狭い部屋の中を赤く染め上げていた。
 時刻は夕方。
 周辺空域の大気成分を調節するために散布されているナノマシン濃度が上がっているのか、恐ろしく赤い夕日。

 『棺桶<コフィン>』と呼ばれるタイプの、居住空間が限定されたZEPPではありふれたタイプの宿泊施設。
 1人で充分、2人だと僅かに狭い部屋。
 1人で充分、2人だとかなり狭い恒温高分子体のマットレスがセットされている。

 総てが赤く染められている部屋の中で一人の女が服を脱いでいく。
 総てが赤く染められている部屋の中で一人の男がマットレスに座り煙草を吸いながら、その様を眺めていた。

 同じ部屋に居るのに、2人とも全く口をきかない。
 奇妙な静寂。
 響く音は男の煙草の熱と煙を感知して作動している換気ファンの低いうねりのような作動音。
 女が脱ぎ捨てていく服の衣擦れの音。
 喪くした片腕の替わりとなっている武器が外され、床に落ちる度に発つ硬い音。

 観客を焦らすとか、相手に媚びるとか。
 色気も演出も何も無いストリップ。
 脱ぎ終えた女はコフィンに入ってきた時の服装…黒いロングコート、同色のツバ広の帽子、眼表情が読めないサングラス、動きを制限しない強化絹のズボンのまま座して煙草を吸っている相手の眼の前に来て、躯を見せつけるように一回転する。

 ゆっくりと全身の傷を、見せつける。
 
 千切れて骨だけが飛び出している腕。
 遺った腕に走る、細かな擦り傷の痕。
 抉られた痕が遺っている下腹部。
 継ぎ直された脚。

 背中を見せる間も男からは視線を外さない。一つしか無い眼の視野に入るようにしている。
 挑むような眼。視線に力が有ったなら串刺しになりかねない眼で、男が着けたままの色の濃いサングラスの奥を見据えている。
 剣を交えている時と変わらない眼。
 
 女が見せ終わり、男が煙草を灰皿に押しつけて火を消す。
 僅かな沈黙。
 赤い光を浴びてまるで全身に血を浴びたばかりのような女が言った。
「傷だらけだろう」

 あるがままを告げる平坦な声。

 うちのクルーの通常報告の方がまだ色気がある、と思いながら男は頷く。
 女が言葉を続けた。
「殆どの男はコレを見て逃げ出す。それか、物珍しさ…一種の肝試しで抱けるかどうかって試すクチだ。アンタは?」
「日本人専滅から今まで日本人である事を隠しもせず『外』を出歩いて生き残ってきた姐さんにこう言うのは失礼かもしれないが」
「言ってみなよ」
「俺は姐さんの傷という疵を全部、獣みたいに消えるまで舐めて埋めたい」
 女の一つだけの眼が見開かれる。低い、かみ殺すような笑い声が哄笑に変わるのに時間はかからなかった。
 息をついで、女が言う。
「そんなんじゃ埋まりゃしない。消えない。
 アンタの舌が擦り切れて無くなるのが先だね」
「試してみないと、わからないだろう?」
「変態」
 低い笑い。
「褒め言葉、と受け取っておこう」
 男の指先が女の、抉れた疵の残る下腹部に触れる。己のものより僅かに高い熱を帯びた指先にびくり、と女の薄い腹筋がさざめく。
 冷たい女の躯の中でも最も冷たい部分。
 
 あの夜。
 あの男…『THE MAN』に抜き取られた卵巣。
 絶滅危惧種の日本人でありながら『外』を出歩ける通行証。
 無くなった腕や眼よりも最も空虚で冷たい部分。
 
 相手の反応を試すように触れた指を、女は振り払わない。男がゆっくりと確かめるように掌で傷をなぞる。
 女は触れる手を振り払いはしなかったが、男が座していたコートを支点に寝台に押し倒すと上にのしかかった。
 倒しざまに、男のサングラスを奪い後方に投げ捨てる。
 カシャン、とサングラスが床に当たる渇いた音が部屋に響く。
 グラスの下から現れたアイスブルーの眼。部屋の赤さに馴れないのか、すがめられる。
「おい」
 抗議の言葉は噛みつくようなキスに呑み込まれた。
「あたしは、隠しごとはいいが、嘘はキライだ」
「なんのことやら」
「こういう時ぐらい、眼の中のソレ、外せよ」
「…普通、服の方を先に脱がせないか?」
「アンタにとっちゃ、ソレも服だろ。
 自分で取る?それとも取らせるか?」
 苦笑したまま男は答えない。
 苛立った女が、舌先で眼球を舐め取り、アイスブルーの欠片を奪い、飲み下す。
 カラーコンタクトの下から鳶色の…日本人の眼が現れる。
「…コレで満足かい」
「ああ」

 酷く醒めたセックス。
 金の替わりの、取引としてのセックスなんてそんなものだ。
 
 
 
 
 
 きっかけが何だったのか、は単純だ。
 空に浮かぶ国ZEPPで女は日本人保護区…通称『コロニー』…に向かう船を探していて。
 「魔法は科学技術の進歩と多くの人々の努力無くして有り得なかった。それを否定することは歴史を封印し、改竄することに他ならない」と科学技術を『保管』しているZEPPで男は船を…クルーの食糧などが尽きたり、機嫌の悪いドラゴンとのランデブーでも無ければ何処へでも飛んでいける飛空挺持っていた。
 
 女は船賃は無い、と告げた。
 男が「だったら俺と剣か酒で勝負して勝つか、抱かせれば乗せてやってもいいゼ?」と答えた。

 男は他のクルーが総て買い出しだのに出ている間の留守番として居残っていて…要するに退屈していて…少したちの悪い冗談として持ちかけたつもりだったのだが。

「なら、抱くがいい…抱けるものならな」と女はデッキに佇む男の側へ一瞬のうちに上り詰めると言ったのだ。
 挑むような口調。
 デッキに上がる時に微かな鎖の、涼しい音がしたのを覚えている。


 涼しい音を点てながら、女は解いた武器…一体どんな仕掛けなのか、本人とカラクリ師しか死らないだろう…を服より先に身に着けながら女は男に問うた。

「何故、抱いた」と。

 どんな男も、躯の傷、欠けた腕、継ぎ直された脚、傷跡が残る隻眼…。
 有る者は怯み、有る者は恐れ、有る者はハッキリと言った。
『醜悪だ』と。

「『コロニー』に行くんだろ。アイツと殺り愛に」
「ああ」
 ZEPPで万全にメンテした獲物。メンテで使い果たした持ち金。幾ら酒に強くても一瞬の油断ず命取りになる相手。『刃の無い武器』と呼ばれる対ギア用の武器…神器…に撰ばれた使い手。

「だったら、今の姐さんが取引として持ち出せるのは躯だけだろ」
「醜いが、な」
「どこが。
 醜い女、なんてこの世界に居無いんだゼ。居るのは努力し無い女だけだ。
 
 姐さん、アンタは極上の女だ」

「は。言ってろ無貌の色男が」
 マットレスの上から何か新しいオモチャが動く様を見るような眼で服を身に着けていく女を凝っと見続けて居た男が告げた。

「アイツと殺り愛って新しい傷が出来たらまた船に乗ってくれ」
「何だいそりゃ」
「傷が埋まるまで料金フリー、行き先フリーってことで」
「…変態」

 飛空挺の出立時刻を聞き出し、女はコフィンを出て行った。

 遺された男はコートのポケットからシガレットケースを取りだす。煙草と、予備のカラーコンタクト。コンタクトを入れて、煙草に火を点ける。

「…フられちまったなぁ…」

 呟きは独りのせいか、耳に付く換気ファンの音に吸い取られていった。


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[note]
 芥溜めを整理していたらウッカリ出てきた書きかけだった話。

 
 自分の中で『Guilty Gear』はGGXで終わってます。
 何となく、なのですが梅喧サンを抱く事が出来るのはジョニーだけなんじゃないかなーと。
 ソルだったら殺し合い。
 チップなら「10年後に出直して来な」とか言って独りで酒飲んでそう。
 カイは変に同情して返り討ち。
 闇慈は莫迦なようで天才だと認識。弟みたいなもん?
 

2004 0821


原版掲載
『音楽機械劇場』
http://www.m-n-j.com/town/entertainment/notion/SMT/index.htm

書いたヤツ:弐号



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