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note/ 『スタートレック・ヴォイジャー』のFicです。ドラマ本編が大変にイカサマじみた方法で帰還成功させてたので。このFicではドラマで使った帰還手段は「提示はされても使わなかった」という設定です。まだ飛び続けてます。(要するにAU)


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「総ては『幻』だ」



 聞こえるのは風が紙をめくる音。
 砂利を洗う漣<サザナミ>。

 拡げられた防水シートと薄葉紙で綴じられた本を押さえるために置かれたラジヲ。
 ラジヲの動力源であるゼンマイが捲き戻る音と共に、奇妙な…もの悲しい音楽が流れ続けている。

 美事な円弧を描く入り江。
 空は薄曇り。
 太陽は出ているのに昼なのか、夕方なのか、明け方なのか判然としない明るさ。

 幻のような場所。
 何時か見た事のある場所、行った事の有る場所なのか?と。
 背を向けて汀に佇んでいるこのホロ・プログラムを独りで制作したセブンに尋ねる。
 浜にいる私を一瞥して「わからない」という。

 誰に対しても機械のように簡明な受け答えで。
 時には相手を苛立たせるセブン・オブ・ナイン。
 
 彼女にしては珍しく不明瞭な応え。
 「わからない」という応えにしては、細やかに作られた形跡が在るホログラム。

「私自身が行った事の有る場所では無いのは確かだ。私は知識としてしか海を知らない。海を見たことが無いし触れた事もない。
 私はまだボーグ集合体だった頃には多数のドローンと記憶を共有していた。
 常に私の記憶と経験は同時に別のドローンの記憶と経験だった。

 その時の誰か別の者の記憶か、全く新しい私の創造〈イメージ〉に因るものか、わからない。
 ここに有るモノ、目に映るもの…総ては『幻』だ。
 海も空も、太陽もプログラムの実行中止を命令すれば消える」

 総ては視覚と聴覚に訴えかける錯覚に過ぎない。
 光子体を構成する技術とレプリケート技術の発達で視覚と聴覚だけでなく、触覚や臭覚にも訴えかける錯覚。

 限りなく本物に近く作られたニセモノ。
 
「なぜ、これを私に見せたの」
「その問いに答える前にこちらが問いたい。
 艦長、なぜあの時。一瞬にしてアルファ宙域に戻れたかも知れない、未来の貴方からの提言を拒否したのかと」

「フェアなやり方では無かったから」
 サラリと。皆の前でも答えた、言葉。

 未来の技術を使っての艦体強化。
 未来では知られていた知識の応用。
 それによる一瞬にして行うアルファ宙域への帰還。

「『それに、100と99と101の違いは何?』ということよ…どこからがアルファ宙域で何処からがデルタ宙域か、なんて明確な線が引かれているわけでもない。
 ヴォイジャーという艦は一隻だけかもしれないけれど、この艦には智慧と勇気、経験で今までの困難を乗り越えてきた者たちが大勢居る。
 誰かしらが、途を見付け技術を作り出し、いずれ帰り着くわ。

 それと、未来の自分が言った事だけど、どうしても赦せなかった事があるから」
「赦せなかったこと?」
「セブン。貴方が死ぬと告げて…感情に訴えようとした事よ」
 沈黙。漣の音がうるさいくらいに響く。
「生命体が死ぬ事は生まれる事と同等に当然のことなのに、未来の私はそれが理不尽なことでもあるかのように話した。いずれは不老不死さえも可能になるかのような物言いで。
 生命を、生き物の足掻きや努力、生存本能を貶めるようなあの言い方が一番赦せなかった。
 未来の私がそんな事を考え、しかも実行…ヴォイジャーをイカサマじみた手段で還らせようとした事以上に赦せなかった。
 だけど、セブン…貴方や他のみんなにも謝らなくてはならないわね…殆ど私の一存で生きて肉親と会う機会を奪ってしまったと。

 これがセブン、貴方の問いに対する私の答え。
 誰かがここをモニターしているかも知れないけれど、これが私があの時の選択を拒否した本当の理由。
 これでいいかしら、セブン・オブ・ナイン」
「…ありがとう、ジェインウェイ。
 今度は私が答える番だ。
 私はあの時、…未来の艦長が私が死ぬと告げた時。
 ボーグでもなくかといって人間とも異なる私もいずれ死ぬと知って驚いたが同時に安心したのだ。
 もうボークでは無いのだ、と。肉体が消滅しても記憶がデータとして保管され、運用されることは無いのだと。
 だからコレを作った。
 ボーグでもなく、人間とも少し異なる者。一時の幻のような者が作った、幻を。
 人間の言葉でいうところの…遺言状のようなものとして、艦長、保管しておいて欲しい。
 私が死んだら時々起動してピクニックにでも使ってくれ」
「チャコティ副長には…」
「もう話してある。データも渡した。

 未来から来たジェインウェイの言葉と異なり、もしも先にチャコティが死んだ時に皆に遺しておきたいホロ・データも私は受け取っている。

 彼はデータを渡す時に言っていた…『総ては幻だ』と。

 人の生き様もヴォイジャーの事件も…いや、命というもの総てが宇宙というものにとっては幻の様なものなのだろうが、それでも」

 生き続ける。

 漣の音。
 入り江の湿気を含んだ風が薄葉紙をめくる音。
 ゼンマイの切れたラジヲは止まり、ホログラムはデータとして記録されデータパッドが手渡された。


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[note]
 何かメモ中をイロイロとほじくり返していたら発掘されたので掲載。FFNに文投げようとしたらトンデモネー文字化けの嵐。よってここに収蔵。
 コレ書いていて「死ぬ」というものは「生まれる」と、同等のごく自然な現象と捉えている自分にとってスタートレック全体に漂う「死」を否定する…まるで何かの病のひとつであり、いずれ克服出来る…様な雰囲気が苦手だ、と自覚した。

 ちなみに、書くきっかけになったBGMはサントリーの烏龍茶の…「西湖のほとり」で、だったような気がする。


2004.8.20


原版掲載
『音楽機械劇場』
http://www.m-n-j.com/town/entertainment/notion/SMT/index.htm

書いたヤツ:弐号


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