2回目のお別れと3回目の出会い。
祐介くんにとっては数ヶ月。
わたしにとっては数年の時が経っていたけれど、初めて逢った時と変わらない壊れ物を扱うように…大切なものを奪われないように、抱きしめてくれる腕。
「泣かないで」
頬を伝う祐介くんの涙を受け止めるために伸ばした私の指先が氷のように冷たい…わたし、消えてしまうのね。
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「お前の選択は愚かしいものだ」
「過去世界へ行かせるべきでは無かった」
「記憶を抹消しろ」
「それは出来ない。彼女の学習、知識、経験を否定することになる」
「再度の、3度目の過去転移…それもあの大量の酸素を含む大気に接触する時代に転移するという事がどういう事が彼女は理解しているのか」
判っているし知っているわ。それが一体、何を意味するところか。
「たかが、独りの人間のために…3度目はこちらに戻ってくる事は出来ない」
判っているわ。あの大気。緑あふれる濃厚な大気は分子強化された躯でも急速に蝕むという事。
3度目。
蝕まれ構成が崩れた躯を無事に帰還転移させる事は『非常に困難』だという事も。
完全に炭化した本を、全く崩さず手に取るぐらいに難しいと。
「死にたいのか」
そう訊かれた。
「いいえ。
わたしは、生きたいのです。
老いも病も死も私たちは克服しています。
ですがそれは…真に生きているといえるのでしょうか?
光の無い処に影が無いように、痛み無きものに快楽が無いように、悲しみが無い者に歓びが無いように。
死の無い生は在りえません。認めてしまったらそれは生の無い死の存在を認める事になります。
わたしは…彼、高崎祐介との時間を共有する事で『生きたい』のです」
たとえ。
それが短い時間であり、死という代償を支払わねばならないとしても。
どうしても、わたしは此処に、彼の腕の中に還って来たかった。
わたしのわがまま。
再び彼に会いたいと。
一緒にいたい、一緒にいろんな事をしたい。
もっと触れたい。触って欲しい。
抱いて欲しい。抱いてあげたい。
あのときの、上ずった声でわたしの名前を喚んで欲しい。
何度でも。
あの樹の下で、初めて逢った時。初めて見送ってくれた時のように。
見送って欲しかった。
だから、最期に…彼には本当の事を話した。
もう、この世界の何処にも存在する事が出来ない躯になって来ていて、世界から弾き出されてしまうという事を。
「ありがとう、祐介君。そしてゴメンね…。
わたしのわがままに付き合わせて…」
行くな、と彼が小さく言った。
「ツラいなら、忘れさせてあげられる、よ…」
そのためのシステムは必ず持っていくのが過去転移の規定だから。記憶調律の対象として最期に残っているのは祐介君だけ。
でも。
彼はもう壊れかかっているわたしの躯を、壊すまでに抱き締めて耳元で囁いた。
「…今度は俺からみどりに逢いに行く」
何のことだろう、と動かなくなりつつある首を捩って見た先には彼の真摯な眼。
「未来の、みどりに…逢いに行く」時を遡る事は出来ないけれど、未来へ行くことはできるから、と。
無茶な言葉。想像もつかないくらいに辛く、努力が必要な決意…約束の言葉。
泣きたいくらいに嬉しいのにもう涙も出ないなんて。
最期に覚えているのは彼の、祐介くんの乾いた唇。
たくさんの触れるだけのキス。
あの樹の…初めて出逢った時の樹…の木漏れ日。
眼は閉じない。
幸せ過ぎて、総て見届けたかったから…眼は閉じれなかった。