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Dr.狂乱に加工転載許可発行済み
EVOLUTION


 力が欲しい。
 誰よりも強くなりたい

 そう思っていたが
コロシアムでの試合…人の手により破壊と殺戮のみを目的として創られたモノたちの衝突…を
目の当たりにして判らなくなった

 本当の強さとは、何なのか
俺が求めている強さとは何なのか

ただ、これだけは明らかだった


 俺は、弱い




 コロニーの中は広い。
 絶滅寸前までに減少したとはいえ、数万人もの人間が外界から保護され、コロニー内で完全に自給自足の生活を送っている。終生『外』に一歩も出ることなく一生を送れるように、創られているから、広いのは当然だか、冬季には多少狭くなる。
 手入れの行き届いた広大な竹林が、立入禁止になるためだ。
 手入れが、行き届き過ぎる為、人の立ち入りは禁止とされる。

 命に関わるから。



 竹林の中に踏み込んで2日半日以上。
 乱れた呼吸を整えるため、チップは竹に寄りかかり、上を見上げる。
 粉雪が舞っていた。
 空は冬の鉛色。
 ただでさえ似たような風景が延々と続く竹林の中では空に陽の光が無いと日中でも簡単に方向を喪う。
 今、チップが相手にしているのが「人間」ならとっくに方向を喪い、距離を取れている。戦闘の、とくに野戦の訓練を受けた者でもこの場所はそうとうこたえている筈。
 なのに、あの人間に姿形が似ていても人間から外れた者…コロシアムで最期に立っていた者…は簡単に距離を詰めて、チップの正面、間合いギリギリの位置に立ち、視線が合うと言い放った。

「どうした、もう終いか」

 平坦な声。息も乱れていない。
 気配を殺そうともしない。
 右腕には細い竹枝が刺さったままで、伝い滴り落ちる血が雪に散っている。
 僅かに、笑いを含んでいるようにチップに感じられるのは、眼が…コロシアムで見た時の、金色になっているせいか?
「てめぇの獲物と戦い方に向いた場所に引きずり込んだの事と…地の利を生かした足止めは褒めてやるが…」
 表情も変えず、億劫そうに彼は右腕に刺さり、貫通している細竹を引き抜き棄てる。
 冬の、雪が降り積もった竹林はそこら中がトラップだらけだ。
 春夏に切り出した跡、株の切り口は水平にしておくのが決まりだがささくれたままになっているモノや切り口を斜めにしたモノは雪に埋もれ、竹林に踏み入った者の身体を時に貫く。
 あるいは、積もった雪の重さでしなり、たわめられた竹や枝が。
 ふとした拍子で通りかかった者を襲う。
 罠として『仕掛け』を作って置くことも有る。

 話している間にも、『竹』が貫き人間で在る事から外れた者の流す血は、何故か人間と同じ暗紅色で雪に染みていく。

 流れっぱなしはマズイ、という事なのか。
 ただ単にチップを何とも思っていないのか。
 ソルはチップの目の前で足に着けているベルトを外すと右腕に巻き付け、口を使ってベルトを締める。
 応急的な止血処置。

「来るなら、殺す気で来い。
 ハンデだの正々堂々なんて御託は並べるな」

 口ではそう言いながら、ハンデを付けてのはアンタの方じゃないか、とチップは文句を言いたかったが。
 ブレードを構え直し、間合いを計る。




「戦闘時間、総計で72時間と31分。
 打撲、裂傷、凍傷と失血。肋骨の一部に損傷。低体温症。意識不明」
 有無を言わさず呼びつけられたファウストが積もった雪の中に血を吐いて倒れているチップの容態を淡々と告げる。
 竹林の中は雪が降っていないだけ幾分マシな状態になっていた。
 少なくとも、視界が利く。
「御託はいい、治るのか」
「治るも何も、治ろうとするのは患者の意思です。
 そして彼は治ろうとしている。今までも、これからも。
 己の命も顧みずに強い者と戦いたがる強烈なまでの『強さ』に対する欲望、ともすれば自虐癖は治らないでしょうがね。
 医者としては、彼よりも貴方の方が気になります。
 うざったい、と口では言いながら彼の、チップの相手をしている。
 簡単に彼との勝負を終わらせる事も貴方は出来るでしょうし、彼も覚悟している上で勝負を仕掛けて来ている。

 なのに貴方は彼の限界まで戦いを引き延ばすだけ引き延ばして私を呼びつけて手当をさせる…。
 貴方が彼を鍛えるのは、何故です?」


 永久にも近い命を生きる間の、刹那の暇つぶし。
 兵器として創られた故の睡眠や摂食といった生命維持よりも最優先される、殺戮衝動の緩和。
 もしくは、総ての終束。


 いずれの回答が目の前で煙草をくゆらせている人のように見えるが人では無い者から発されるか、紙袋の奥からファウストは待ち続けた。もう、何度か似たようなやりとりを行っている。
 答えが得られる事は今まで無かった。
 おそらくこれからも無いだろう。
 竹林を出て屋内まで搬送出来るように、ファウストは黙々と患者の処置を続ける。
「テメェは、何でいつも来る」
「医者ですからね。
 助けと治療を望む者が居るなら何処へだって馳せ参じます。
 ただ、彼と貴方の勝負に関しては、正直言って興味と好奇心の方が強いですね。

 ただの人間が、『人で無くなることで人を越えた強さを有するが、強さ故に持て余す者』を越える強さを得る瞬間が有るなら、この眼で見ておきたいのですよ。


 人でなくなる事で人を越えた者を狩る為に造られた者でもなく、
 人である事を棄ててまで強さを求める者でもなく、
 何かの為や誰かの為に戦う者でも無い。
 ただの人間が、強さを求める純粋な意志が、

 人で有りながら人間では持ち得ない強さを持つ瞬間を」
 あるいは進化の瞬間を、と言いかけて、ファウストはやめた。

 パサパサと、微かな風で竹の枝葉に積もった雪が落ちる軽い音が響く。 
 昼でもなく、夕暮れでもない。降り積もった雪の発する奇妙な明るさの満ちた静けさ。
 新しい煙草に火を点けながら、横たわっているチップを見遣ってソルが言った。  

「見込みは有るか」と。
 平坦な声。
「可能性と機会はあるでしょう。気づき難いだけで。
 天気が崩れる前に、さっさと彼を暖かい場所に運んでやってください。お大事に」




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COMMENT

 某裏茶室で某ドクターに「チップ×ソル、書きませんか」と言われて以来、念仏か憑き物のように弐号の頭の中にCSの文字が廻って出たのがコレ。
 弐号にとってGuilty Gearは好きだが書きづらい一品だとようやく自覚。<遅

ソル
 面倒くさがりなこの人を「本気で戦う気にさせる」ってのは押し倒してヤる事以上に難しそうだ。楽しそうではあるが。

チップ
 文中で医者に言わせてしまったが。誰かの為でも何かの為でもそうしろと刷り込まれた訳でもなく、ただ「そうしたいから」と強さを求めてる人間ってゲーム中で彼だけではないかと。

ファウスト
 専門は小児外科と推定。笑う事は免疫力を高める(本当)ので、入院患者を笑わせる為にああいった技の数々が開発されたと考察。勝ちセリフが医者としての本性で本心と読み込み。出張ったのは弐号をそそのかしてくれたのがドクターだからでしょう。多分。きっと。


 『あの男』の話、書きてぇ…。
 『あの男』と『ソル』と『アクセル』って、時間をどうとらえてるのかね。

『ソル』→150年以上、連続した時間帯を生きている
『アクセル』→20世紀(最初にら跳んだ時点)以降の、無限に近い時間帯に分散した時間(存在点)を持つ
『あの男』→存在点、存在時間帯そのものを「不確定」にしている。常に何処にでも、至るところ居るように引き延ばした。(シュレディンガー…)

 だったら爆笑。(2001.1.14)

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