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 物語が始まる



 彼は笑っていた。
 笑いながら、死刑台で首を刎ねられて逝ってしまった。


 夜昼問わず、彼が閉じこめられ『警備』の名の元、常に誰かが付いていた独房。
 実際には。
 誰もが独房に居る彼の財宝と情報を欲しがり、拷問じみた事が彼に対して行われていた事を、オレは知っている。
 まだ海軍でも下っ端の雑用で、オレは海軍の独房に食事を運んでいただけだったが…彼がどんなに打たれて血が流れない傷を負わされても、常に不敵な笑みを浮かべていたのを覚えている。
 泣き、哀願し、妥協する事よりも。
 笑いながら己で納得して行く途を撰んだ男。
 人々が『海賊王』と呼ぶ男。
「海軍に捕まって悔しく無いのか?やり遺している事は無いのか」とまだガキだったオレが問うと、彼は一人前の、大人に対するように俺に向かって静かに、笑みを浮かべて答えた。

「二つ、遣り残している事が有る。
 ひとつは処刑台の上でやるからイイが…もう一つを見届けられないのが…ちぃっとばかり、口惜しいか…」
 処刑台の上で何をするつもりなのか、とオレはかなり聞きたそうな顔をしていたらしい。
 彼が続けた。
「なに、ちょっとした遺言をするだけだ。
 俺が居なくなった後のこの世界を退屈出来ないようにする遺言だからな…覚悟しておけ、海軍の小僧」
 もうひとつは何なのか、とオレがきいても鉄格子の向こうの彼は「いずれ解る…いずれ、な…」と。
 子供のように笑ったまま決して答える事は無かった。

 数日後に。
 高く高く、ひたすら高く。
 街の広場の中央に、見せしめ用に組み上げられた処刑台を眼にすれば彼も諦めて命乞いをすると、海軍将校たちは予想していたらしいが。

 広場を埋め尽くし、周囲の建物の、窓という窓から。
 彼の首が刎ね飛ばされるサマをひとめ見ようと鈴なりの人々を処刑台の上で。
 手には枷を填められ、首筋には数分後か抵抗すれば直ぐにでも己の首を斬りつける刃を受けたまま。
 彼は笑みを浮かべてゆっくりと周囲を見回す。
 見回して彼は呟いた。

「…イイ眺めじゃねぇか」と。

 周囲を埋め尽くす群衆から、彼に向けられて問いが発せられる。連日海軍の将校から問われていた問い。
 独房で何度問われても決して応える事の無かった問いに。
 初めて、彼が答えた。

「オレの財宝か…。
 欲しけりゃくれてやる。探せ。
 総ては『其処』に置いてきた…!」

 回答。

 皆が聞きたかった、答。
 彼が、遣り残して死んだら後悔すると言った事のひとつ。
 彼が言うところの、「ちょっとした遺言」を。 
 言い遺した直後。周囲の人々が聞きつけた瞬間。

 広場を揺るがす歓声、怒号。
 微かに混じる嘆き、抗議、憤怒の声。

 沢山の想い、灯された欲望が、時化の海…まるで嵐かハリケーンの直中の洋(うみ)のように渦巻く真っただ中。
 あとひとつだけ、『己の眼で、見届けられず口惜しい事』『いずれ、解ること』をこの世界に遺した彼は。
 嘲いながら。

 零れる血を吸い取る為の藁が敷かれた
 高くて
 狭い場所で

 笑いながら首を刎ねられたのが22年前。
 彼の首が身体を離れ、藁に落ちた瞬間から物語は始まった。

 22年、経って。
 彼の首が刎ねられた場所で、オレは多分、彼の遣り残した事の「二つ目」に遭った。




Comment=====================================

某マンガのFanFic。だが、キャラ名出てないので地下から引き上げ。
酔っぱらい・アドリブ・一発書きで自宅BBSに書き殴ったのに加筆したブツ。

マンガでのセリフから、スモーカー大佐は『彼』が処刑される現場を「見て」いたか、処刑当時にもう海軍に入って居たと推定。
いつ死んでもイイくらいに、毎日やりたいことはヤッて置いて生きたいものです。

まぁ毎日、片手で数えられる程度の事をやり残すのは…諦めるか。




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