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English / Japanese
Title/題名
  51
Author/作者
  jino-nigoh/字之弐号
Series/基となっているシリーズ
  HELLBOY

Rating/読者対象制限

  PG-13/現実世界で子供に銃を撃たせて器物損壊、なんて事はやったらダメですぜ。

Codes/カップリング等

  Torch of Liberty(文中ではToLと略記)視点。なお文中ではHellboyはHBと略記。
Disclaimer/免責事項
  『HELLBOY』『DARK HORSE COMICS社及びMIKE MIGNOLA』のものです。著作権侵害の意図はありません。あくまで個人的な楽しみによるものです。
  これらの作品によって私が直接利益を得る事はありません。ただし,この小説のオリジナル内容に関しては著作権は放棄しません。無断複製・無断転載はしないでください。




「お前にやる。
 だが、出来るだけコレを使う事態が起こらないように努力しろ」


 『GOOD MORNING, TROOPS!』
 傍らに置いたラジヲからノイズ混じりのFM放送が流れていた。若い男の声。
 基地と周辺専用のチャンネル。
 まだ日の出直後だというのに、ニューメキシコの夏は容赦ない。連日の晴天で乾いた空気と埃が微かな風で舞う。土埃の匂いがする空気。零下近くまで下がっていた気温が日の光で上がりはじめる。
 ラジヲからは、何時も通りの内容が流れていた。
 基地で行われる空軍の通常演習の項目、搬入予定の貨物、郵便の到着時刻と発送締め切り、食堂のメニューとサービスチケットの配布、未だ混乱の続いている(らしい)オキナワへの派遣部隊の事…朝鮮の方がキナ臭くなってきている。無理もない…といった別に聴かなくてもイイ内容が流れている。

 聴かなくてもいいのに、チャンネルを合わせているのは今、砂漠のただ中にいる二人…私と基地内では『HB』と呼ばれる者はどちらも腕時計を着けていないという事、そしてここらで鮮明に聞こえる周波数は基地の専用FMチャンネルだけだ、というせいだ。
 明け方の、日中よりは空気が鎮まっている時に、私からHBへ、様々な事を教えるのが私に任務も依頼も無い時の習慣になっていた。
 教える事の内容は様々だ。
 私が得意としている、任務関係の技術…マーシャルアーツ、各種コールド・ウェポンの取り扱い、火器や爆発物の扱い方とそれらを所持して用いようとしている者と向き合った時の対処の仕方。
 時には私が不得手な事も混じる。基地外のこと。人間のこと。学校、教会、野球、チョコレートのこと。
 基地内の人間達のほとんどはHBに何かを教える事…彼の興味を充たし知識を深める事…にあまりいい顔をしない。

 HB。目の前に居る子供。

 子供と言うのが正しいのか、不明だ。
 こっちの世界に来た(現れた、というのがより近いか?)当時の彼は角のある頭に赤い…まるで鮮やかな血を浴びたような…肌、肉質で長い尻尾、虹彩の無い眼、石のような右手(作り物かと最初は思ったが、普通に動く)の…まるで、伝説に出てくる悪魔のような…否、そのものの姿だった。
 伝説にあるような巨躯とはかけ離れた、まるで幼稚園児のような大きさでなければ、この世界に現れた瞬間に現場にいた者たち、恐れをなしたものたち(私もだ)に銃弾を撃ち込まれていただろう。

 人間とも地球上のどの生き物ともどことなく似てはいるが、明らかに違う子供。

 この子供。
 こっち側の世界に来てからはまだ6年もたっていないのだが、体躯の大きさだけは既に人間の大人と同じくらいの大きさになっていた。巨躯、と言っていい。
  

 俺が渡したハンドガンを彼は怪訝な表情で受け取った。

 
 ラジヲからは相変わらず下らない事が流れている。
 昨日ペンタゴンに入った報告書の概要。
 ヒロシマとナガサキに落としたリトルポーイとファットマンの残留放射能とその効果による生物への影響のデータ。新型機のエンジンテスト項目。

 この基地ではディズニーの新作がどんな内容なのか、といったアメリカ国内にいるなら簡単に知ることが出来るニュースは簡単に知ることが出来ないようになっているが、国民には知らせない方がいいと上が判断している類の情報は洪水のように入ってくる。

「常識が通用しない場所だ」と。

 HBが現れた現場に居合わせた数人のうちの一人…今はこのイカレた基地の司令だ…が言ったものだ。
 そう、誰も彼もが灼けつく熱さと乾きっぷりでオカシクなっているこの場所だからこそ、HBは居るのに相応しいのかもしれない。自分らがオカシイから、HBのような常識が通用する場所では明らかに異質な存在が居ても「ああ、またチョットばかり変わったのが居るな」で済む。

 そして彼に手渡した銃も。

 このクソ熱い、ニューメキシコの…場所の名前は言えない…の熱気に当てられた技術者たちが有り余る技術力で退屈しのぎに作った、ライフル用の弾を通常弾として用いるハンドガン。発射時の反動を受け止めるために重量もそれなりに有り、人間の手には片手で撃つのが困難な鉄塊は、HBの手の中に有ると子供のオモチャのように見えた。
 弾倉が空になっている事を先日、教えた通りに確認したHBは困ったような声で言った。

「どうしてだ?
 使ってはいけないなら、どうして……コレを持たせる?」
「使ってはいけない理由は、お前は私の弟子の中でも最低の拳銃使いだからだ」
「ひどいな」
「酷いのはお前だ。
 撃つときはトリガーを絞るようにしろ、と確かに私は言った。だが、一体、何丁の銃を絞って握り潰したか言ってみろ」
 HBが言葉に詰まったが、コレは本当の事だから仕方がない。
「簡単に握り潰されそうにない、お前向けのヤツをジャンクヤードから見つくろってきた。私からの修了証代わりだ」
「物騒な修了証だな、ToL」
 戸惑ったように、銃をなで、慎重に具合を確かめながらHBは続けた。
「本当のトコロ、銃は…苦手なんだ。自分は痛くないのに、撃たれた相手は、弾が当たった相手は痛い。凄く痛いハズだ。
 殴るなら、相手も痛いけど自分の拳も痛む。
 だけど、銃は痛いのは相手だけだ…ズルいよ、そんなの」
「自分が安全なまま、相手の戦力を確実に殺ぐ。それが銃だ。何がいけない?」
「うーん…。
 殴り合いだと、自分も相手も痛いけど、自分も痛い。
 銃だと…自分は痛く無いけど、撃たれた相手は痛い。

 撃った方は撃たれた相手の痛みやトリガーを引いた時の事を簡単に忘れてしまう。だけど撃たれた方は忘れない。死なない限り、絶対に忘れられない。
 不公平だ。

 ToL、アナタからコレを貰えたのは…凄い事なんだと思う。ToLは、コレを使う事態は回避しろ、と言う。
 そして、ボクは…コレを本当は使いたく無いと思っている」 

 目の前にはHBの、何故、という無言の問い。「使うべきでは無い物を、使いたく無いと言う者に持たせようとするのは何故か」と。
 
「だからこそだHB。お前は私の弟子の中では最低の拳銃使いだが…最悪の拳銃使いではない。銃と銃を使う者、撃たれた者の事を思う事、考える事が出来る。
 だからこそ、その銃はお前の手に在るのが正しい在り方だ」

 時に、イカレた場所に集められ、ヒマを持て余したイカレた者達が手慰みに作り上げたイカレた銃。

 イカレた、この世界に。
 父と母の身体を通ること無く、イカレた者たちの作った電気仕掛けの機械と数式、記号の儀式の行使に因り現れた者。

 イカレた者にはイカレた物が相応だ。 
 第一、イカレている物は、イカレている者にしか扱えない。

 ここに来るのに使っているジープの荷台に載せていた弾薬箱から6発ずつひとくくりにされたライフル弾を取り出し、HBに手渡した。
 何度も教え、練習したとおりに装填し両手で構える。
 左手の指をトリガーに掛け、右手でグリップをカバー。右手の人差し指をトリガーガードに添える。
 人間の手には余る大きさと重さのハンドガンがHBの手に在ると普通の大きさに見えた。
 馴れれば、片手で撃つことも反動を受け止める事も造作無くなるだろう。
 20フィート程、離れた所に張り巡らされたフェンスに付けられている「ここより先は軍事基地につき、許可の無い者の立ち入りを禁止、云々」と決まり文句が書かれている10インチ四方の看板を私は指した。

「…バレたら食券の支給、ストップかな?」
「3日後にここいらのフェンスはメンテで貼り替えられる」
「なるほど」
 トリガーが引かれる。
 轟音。
 2回ずつ。
 初めの2発で反動の具合。
 照準のブレを掴んだのか3発目からは看板に、6発総て撃ち尽くした時には砂埃で錆びついていたが四角かった看板はまるで虫食いにでもあったような穴が空き、風に当たって揺れていた。

 点けっぱなしにしていたラジヲの音が戻ってくる。
 
 ノイズ混じりのラジヲからロズウェルに堕ちた実験用の『気球』回収班の報告が流れている。回収班の仕事に穴が有り、『気球』の乗員の姿が漏れたという事。後始末か…追加で流すべきバックストーリーを基地の専門家が作らなくてはいけなくなった事。
 帰ったら恐らく既にデスクの上に届けられているストーリーの推敲と打ち合わせが要る。余計な仕事を増やしてくれたものだ…。
 私の仕事に関わるとりとめの無い思考はHBの声で中断した。
「…悪くない」
「そうだな…悪くない」

 イカレた銃も、それを扱うHBも、HBの技量も。
 悪い者も悪い物も無い。肝心なのは、物と者のバランスなのだから。

 

Note/その他   
 PCの『マイドキュメント』から発掘されたヤツ。2002 0815加筆修正。
 HELLBOYは何冊か翻訳版が小学館プロダクションから出版されている。
 FFNに文投げに行こうとしたが、FFNのジャンルにHELLBOYもDARK HORSEもまだ無かったのでひとまず自分サイトに収蔵。

 つーか、原作。
 絵がヤタラとカッコイイのですよ…そして話の内容が怪談とか伝承とかマイナーな物の怪なんかがスキなヒトが作った話でマンガだなーと。読んでてジワジワ念派がと滲み出てくる。そんなマンガ。翻訳版、続き出ないかなー…。巻末の日本語版用な付録なんかが結構、美味しいんで好きなんです。翻訳版。
 挿絵と扉絵がミニョーラ絵の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の全集出たら確実に買い。

 いや、どうしても…と我慢出来なくてドルが安くなってたら手ェ滑って未翻訳のやつ買うだろけどな…。

ToL→翻訳版ではHBのセリフで時々言及される程度。どうやら政府のエージェントらしいがどうなんだかさえ、あまり出てこない。あの現場には居たのに。



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