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 隣で眠っていたジェサイアがベッドからそっと起き出す気配にラケルは気づいた。
 眠っている彼女を起こさないように、髪に触れる指と首筋に落とされる唇を感じてもラケルは半眠の状態でいた。
 掛け布が、隙間を埋めラケルの肌が冷えないように掛け直されて、ヒタヒタと足音が遠ざかる。ささやかな気遣い
 もう少し、眠っていようとラケルが思った矢先。
 バタバタと慌ただしい音を立ててジェサイアが戻って来た。
 それだけではない。
「ラケル!ラケル!」
「なによ、まだ4:00じゃない…起こすならあと2時間後にして…ユーゲントのラボ行くから…」

 相当、眠いらしい。

 眠りの世界へ戻ろうと薄目が閉じられていくラケルをジェサイアは揺り動かしながら言った。
「なんで、俺の部屋のトイレに使用済みの、妊娠判定キットが置いてあるんだ!」
「なんだ、そんなこと…わたしが使ったからに決まってるじゃない…用がそれだけだったらおやすみなさい…」
「それだけってなぁっ!
 ラケルっ!反応が陽性だろがっ!陽・性!」
 よくアレが妊娠判定キットで、しかも使い方知っていたなぁ、などと感心しながら、低血圧で寝起きが激しく良くない頭でラケルは言った。
「ヤることヤって、出すモノ出してれば、いずれ当たるでしょ…」
 まったく、目の前のゲブラーに主席で入った同級生は一体何を慌てているのだろう。
 彼女に言わせればごく当然の事なのに。
 これで納得してくれただろう、と彼女は寝直そうとした。

 彼女にとって、休息時間は重要なのだ。ラボの使用時間がたて混んでいるこの時期、研究機材は時間刻みで取り合いになる。機材をキープできたとて、待ち時間の間にサンプルの精製や分析で早朝から夜半まで数種類の実験作業を並行で行うのがザラだ。
 ここが自分に支給された部屋ではないとはいえ。
 ベッドで眠れる時間は貴重だというのに。
 ぼーっとしたまま、ダストシュートに放り込むの忘れなかったらジェスは騒がなかったかなぁ、そうしたらもう少し余裕で眠れていたのに、などとラケルは思いながら結局起きる事にした。
 何を慌てているのか、彼女には理解しがたいが、今のうちに質問やら何やらに回答して納得させない限り、ベッドを借りる度に騒がれそうだ。
 寒いので、目の前で当惑している男から深夜にぶんどった夜着(上半分)の肩からシーツを羽織る。
 ベッドに膝を抱えて座ると落ち着きのない蒼い色の目と合う。
「俺の、か?」
「わたしの子だってことは確実ね〜…
 ついでに言うなら…ジェスとしかヤってないから」
「産むつもりか?」
「つもり、じゃなくて産むわよ」

 断言。

「あー、先に言っておくけど。
 コレをネタにジェスに責任取って結婚しろとか、養育費よこせとか父親の責任だの義務なんかを背負わせたりするつもりはないから。
 わたし一人で産んで育てるから…とりあえず明日…じゃなくて…もう今日かぁ…病院で検査して…」
「仕事はどーするんだ!」
「んー、続けるわよ…。今の研究、おもしろいし、気に入ってるし」
「そんなに仕事好きなら何で子供産もうとする!?
 避妊なら俺だってするぞ」

 相当、動転しているらしい。
 第一、なぜ仕事と育児、どちらかを選択しなくてはいけないような事を言うのだろう。
「何でって…子供産みたいし、育てたかったからに決まってるでしょ。
 ゲブラーの福利厚生の制度調べたら、仕事続けてても、シングルでも大丈夫だし、経済的にも余裕有るし…
 こいつの子供なら産んでみたいなぁって思える男も居たし」
「産むなら産むで子供に父親が要るだろが」
「ジェス…この子の父親になりたいの?」
「………」
「ジェスが父親役、やるならやるで構わないけど…」
「…俺はラケルと結婚して家族作って一緒に子供育てたいんだ」

 一見、いいかげんに見えて。
 『仕事は手を抜かない、遊びはもっと手を抜かない』と言われる男の口から、最も似合わない言葉を聞いた気がする。
 一瞬、エプロンを着けて育児や家事にいそしむ、ユーゲント一番の遊び好き、でもゆくゆくはゲブラー総司令とも目されているジェサイアの姿をラケルは想像してみる。

 ……似合わない。
 徹底的に似合わない。
 第一、忍耐と注意力を多大に要する育児という仕事が、目の前の男に勤まるモノだろうか?
 そして同時に『良妻賢母』なる自分を想像してみる。
 賢母、はまだ良い。だが、良妻?

 間。

「…あのね、ジェス。
 わたし、いい研究者で良い母親になる自信有るし、努力もするけど…。
 良い奥さんとかカワイイ妻になる自信、全然ないわよ。努力する気も無いの。
 朝早くでジェスは動転してて…お互い、頭も巧い具合に回ってるって感じでも無いし…わたし、もうラボ行くから、この件に関しての続きはあとでね」
「おい!」
「シャワー、借りるわよ」
 肩から羽織っていたシーツと夜着を、困惑したままのジェサイアに押しつけてラケルはバスルームに消えた。

***********************
[Postscript]

クローンとか人工授精とか細胞の凍結保存技術が進化したら

父親・その1→遺伝子提供者
父親・その2→育ての親。教育者、養育者としての父。

母親・その1→卵細胞の細胞核提供者
母親・その2→卵細胞の細胞質(要するに無核の卵細胞)提供者
母親・その3→子宮提供者。『産み』の親
母親・その4→育ての親。教育者、養育者としての母。

 父2人、母4人の賑やかな家族もアリ、かと。
 ソラリスならそれぞれの『プロフェッショナル』に分業してそげだな、と思った次第。

 続き、書きたいメモの一つ。
 コメディかギャグにしかならないだろう、と予見しつつシリアス狙って。


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