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 入り口のドアが開く独特の軋み音が響いた。だいぶガタが来ている音だ。
 もう明け方も近い時間だ。これからしばらくの間、こんな場末の飲み場は休息の時間に入る。キッチンを片付けていたバーテンが振り返りもせずに時間をわきまえない客に言った。
「閉店だよ」
「別に飲みに来たわけじゃないぞ」
「何だ、ジェフか…早いね」
「ま、な。こっちの方もちょうど上がったからな」
 そう言いながらジェフはカウンターに着き、手にしていたオートフォーカスのカメラに触れた。
 いとおしそうにカメラを撫でる手は生傷だらけだ。

 それを見たバーテンは半ば呆れたように言った。
「相変わらずムチャクチャな生活してるみたいだね…ストリートファイトにストリンガー(事件・事故の現場を撮影し、その写真を売る仕事。トップ屋)おまけに教会のボランティア…一体いつ眠っているの?」
「ドレス着て写真のモデルになってくれるってんなら教えてもいいぞ」
「ばか」
「キング、あんたから見れば俺のやってる事はメチャクチャかも知れないが…俺はただケンカとこの街のいろんな顔や場面が記録できるこいつが好きで、あとは自分でできる必要とされている事をやってるだけだ。ボランティアなんてご大層なもんじゃないさ。ところで、さっきから腹が減ってしかたないんだ。何かないか?」
「残飯しかないよ」
「あ、それでいいや」
「冗談だって」
 冷蔵庫の中から余っていた野菜や何かを取り出すと手早く刻み、炒めだす。実に鮮やかな手つきだった。
「ところでジェフ、ここの用心棒やる気ない?」
「ここのバンサー?」
「うん。あんたくらい腕が良くて名前が知られてれば安心してまかせられるからね」
「ここにはお前が…キングがいるのに?」
「私はもう少しでここをやめる」
「かなり急だな…なんでまた?」
「ラ・モールから誘いがかかった。あそこならジャンが入院している病院にも近いし、稼ぎもいい」
「そうか…悪いが俺はその話、受けられんぞ。目ぇつけた強い奴にほいほいケンカを売り付けられなくなるからな…スマン」
「そう…それとジェフ、気をつけた方がいい。最近妙な連中があんたの事をしつこく知りたがっている」
「妙な奴?俺のファンか?」
「チャカさないで聞きなさいよ…あんたの行き先とかいつ、どこに行けばつかまえられるのかしつこかったんだから。私は言わなかったけど…」
「で、どんな感じで妙な奴だ?」
「後ろ暗くて冷たい…ここに来たのは下っ端で誰か本命が後ろにいる感じだったね」
「ありがとう…おっと…そろそろ行かにゃあ…」
「こんな早く?」
「こんな早くだから、さ。このくらい朝早くないと見れないモノがある」
 そう言うとジェフはカウンターに料理の代金を置く。
 いつもならそのまま出て行ってしまうのだがポケットの中をなにやらかき回している。
「あとこれ、ジャンにやってくれ」
 ようやく取り出した目当てのものは数葉の写真だった。事件や事故の現場を主に撮っているジェフにしては珍しい風景写真。それもきれいで明るいものばかりだ。
「病院の中ってのはしばらくいると飽きてくるからな」
 少し照れ臭そうに言う。
「ありがとう。近いうちにまた来てよ。今度はもっとまともなの、用意しとくから」
「わかった」




 彼がここに来たのはこれが最後だった。