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Opening Demo |
広いデスクの上に載ったインターフォンから軽やかな音が流れた。
『未知との遭遇』とかいう昔の映画で使っていた異星人との挨拶のテーマだった。以前のこの部屋の使用者が皮肉のつもりで残したらしい。
現在の部屋の主であるギャラガー准将は音に反応してディスプレイから顔を上げた。表示をチラッと確かめる。オフィスの前で待機している秘書からだった。手をのばしてスイッチを入れる。
「何だ?」
『グレン・リード准佐がお見えになっています。いかがなさいますか?』
「通してくれ。それと、もう仕事が無いようなら休むように」
それだけ言うとギャラガー准将はスイッチを切った。今日で彼女は秘書の任務が切れる。彼女はこの新しいオフィスに移って以来、書類整理や必要なネットワークとのリンクといった煩わしい事が多いため一週間という期限付で出向してもらっていた。まだ四日ほど残っているが、必要な事はすべてもう終わっている。
―今回の任務はかなり…厄介な事になるかもしれない。余計なことに巻き込まないよう、彼女は明日からは通常の任務に戻した方がいいか…。
ディスプレイを眺めてギャラガー准将は考えた。ドアが開く気配がしたため、ディスプレイの映像をカットする。
入って来たグレンは左手を挙げる。
「リード准佐、出頭しました…で、なんかあったのか?」
「まあいろいろとな。とりあえず座ってコーヒーでもどうかね?少佐どの」
「少佐?何だそれは?」
グレンはわずかに眉をひそめた。
「明日の9時に正式な辞令が来る。それと、新しい任務もな」
そう言いながらコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぎ、グレンの前に差し出す。
普通なら逆なのだろうが、二人とも別に気にしない。
なぜならヴァリアント・アーマーのパイロットには兵士はいない。全員、将校で士官クラスだ。そのためか、VAから降りたら階級なんかは無視してかまわない、という不文律があった。
そしてギャラガー准将も以前はVAのパイロットだった。体力が落ちたためもうVAに乗る事はなくなってしまったが、体力のかわりに先の戦争で生き残ることによって別の『力』を身につけた。
人はそれを『老練』とか『したたかさ』と呼んでいる。
グレンはその事を知っていた。
だからこそ慎重に話を切り出した。
「新しい任務、とは?」
「新しいVA師団を作る。…グレン、君に戦隊長をやってもらいたい」
「…随分急ですな。戦争はもうとっくに終わったというのに」
「そうだ。上からはそれに伴う軍の整理・再編、と言って来ているが…何かあるらしい」
「何か?」
「ろくでもない事、の気配がする」
「成程…まるっきり釈迦の手のひらを回る孫悟空か」
「まったくだ。匂いはするが火薬が見あたらない」
そこまで言うと二人とも黙り込み、冷めないうちにカップを空にする。グレンはコーヒーのおかわりを注ぎながら言った。
「残念だが、その辞令、辞退したい」
「なぜだ」
「あと二週間で任期が切れる。除隊するつもりだ」
「…あの時の事を気にしているのか?」
「多分」
そのままグレンは黒く揺れるコーヒーの水面に視線を落としたまま続けた。
「確かにあの時の事は今でも毎日、まるで影のように付きまとい、事あるごとに思い出させる。一種の罪悪感とか良心の呵責のような物なのかも知れない…」
じっと見詰めているコーヒーの中からだんだんと浮き上がって来る物がある。
『通った後は何も残らない』とまで言われた攻撃能力を誇った第十三部隊。
だがそれは巧みな誘い込みに合い、全滅した。
気がついたときにはグレン一人だけ生き残っていた。最後に覚えているのは血が流れ滴り落ちているパイロットシート。次に目が覚めたときは数日、時間が経っていた。死んだ仲間の家族が無言で問う。『どうして…』と。
沈考するグレンの前にギャラガー准将はファイルを差し出し、静かに言った。
「だったらなおさらだ。グレン、君なら多分彼らを連れ帰れる。とにかく見てくれないか」
渋々ながら彼はファイルを開き、ざっと目を通す。再度、丁寧に目を通すがそれほど時間は掛からなかった。なぜならたった三人分しかないのだ。首を振りながら言う。
「…むちゃくちゃだな。メンバーといい、使うVAといい…」
「そうだ」
「だがどんな局面でも対応できる柔軟性はありそうだ」
「引き受けてくれるか?」
「技量によってはな…考えてみる」
グレン自身はこう言っているが、これは彼にとっては8割方引き受けた、という事である。どのみち、軍という組織には選択の余地など無い。
「引き受けるんだったら解ってるだろうが、偵察機だけは絶対に帰還させてくれ」
「…俺はもう仲間を死なせる気はないぞ。誰でもな」
そう言うとグレンはファイルを手にしたまま立ち上がった。
「話はそれだけか?」
「それだけだが…どこへ?」
「自分の隊員になるかもしれんやつらをちょいと見てくる」
ファイルをひらひらさせるとグレンは内心、苦笑しながらドアを出て行った。
―また上手くはめられたような気もするが…まあいいか。
Opening Demo/
end