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 またの名を『愚か者の街』と呼ばれる
 東海岸の都市。そのただ中に
 旅客航空機が墜落してから
 数日後。


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 私のごく親しい友人に、異星人がいる。

 彼は表向きと外見は凡庸な新聞社に勤務する一介のジャーナリストの白人男性、ということになっているし、彼自身も凡庸な白人男性を演じている。
 その彼が墜落事件の後、現場にほど近くに作ったボランティアたちと被災者の為のステーションにやって来て、私を見つけると迷うこともなくやって来て言った。

「なぜ、私を喚ばなかった?」と。

 苛立ちを抑えた声。この星にやって来た彼を拾い、育てた者達が彼に『自制心』というものを教えたことを感謝しておこう。
 地球人には無い力は重力さえも振り切る。
 彼はその気になれば、簡単に命を奪い、壊す事も出来る。素手で(恐らく、指先だけで)人をひねり殺せるのだから。
 
「喚べばこの風景が作られる事は無かった、とでも言いたげだな」 

 崩れたコンクリートの山。
 航空機の墜落…正確には、ビルにぶつかった…の衝撃。
 かかる加重に耐えきれず折れた鉄骨とコンクリート。
 剥き出しになった鉄骨の格子状の骨組み。
 粉砕されたガラス。
 未だにくすぶり続ける炎と煙、熱を持った瓦礫は救助を困難なものにしていた。
 地上と地下、232階分の建築構造が瞬時に崩れ落ちる衝撃で周辺の地下構造や立ち並ぶ高層建築の基礎部分にも歪みが出ていること、何時崩れてもおかしくないことが更に困難なものにしている。
 現場近辺のガス配給はストップされていたが、埋まった可燃物でくすぶり続ける炎。
 そして墜落直後、救援に駆けつけた警察、消防、レスキュー組織の車両や突入用の装備を崩れるビルの瓦礫は飲み込み、除去しなくてはならない瓦礫の中に装備品ごと埋まっている。鉄骨や鋼材の切断と除去にはバーナーと携帯型のトーチ、カッターが用いられていたが時々埋まった車両と装備品の酸素ボンベ、ガソリン、ガスにスパークが引火し時に爆発する。

 急いで、だが慎重に。
 いそがなければ、まだかろうじて残っているであろう生存者は死に始める。早く瓦礫を取り除き、助けなくてはという救急スタッフに走っている焦燥と、重機を持ち込み寄ってたかってでも瓦礫を取り除きたいという衝動。 
 急激に掛かった重量を急いで『無くした』時に何処が更に崩れるのか、、沈み込むか、燃えるか、『読みながら』の作業。

 いつ焦りのあまり暴走しかねない救助・建築スタッフのたち焦りを抑えて交代で休ませる。(何人かは無視して現場で作業を行っていた)
 救助のスピードを上げるためには、スピードとスタッフや集まったボランティアたちの救けたい、何か出来る事、力になれる事は無いか、という意志を抑制しなくてはならないという矛盾。

 交代で、常に間断無く取り除かれて、バケツで運び出されていく瓦礫。古典的だがハンドラーと訓練された犬で行われる生存者と遺体の探索。危険箇所へのマーキング。
 埃にまみれてくすんだた、蛍光黄色の反射材入り制服、白い作業用ヘルメット、防塵マスクを纏った者達が挑んでいる瓦礫の山。 

 何重もの検問の先、立入禁止のテープが張られた向こう側では「あたりまえ」となった光景。何かに取り憑かれたような顔で行っては戻ってくるスタッフたちが次に入るスタッフ達の為にマーカーを入れ、埃にまみれたボードとマップをプリンターから吐きだし、最新のナビ情報を映した原図のモニター見遣りながら私は彼に続けた。
「君を喚んだとしても、航空機のコントロールを奪った彼らを止める事は出来なかった」
「なぜ、そう言える」
 苛立ち、苛立ち。
 誰も彼もが此処では自制心を試される。
「君という存在、君の持つ力は確かに強い。
 重力という枷を易々と振り切る身体。その力でビルが崩れるのを手で支える事は出来ただろう。
 あるいは、航空機の墜落を物理的に止める事は出来ただろう。
 だが、人の形、人の姿をした者が操る神の力で人間を、人間の引き絞られた衝動と意志を止められるか?」
「私は神ではない」
「だが、人間でもない」
 酷く残酷な言葉だが、事実は事実で変えられない。
 彼の生まれた星は既に無い。係累も星が無くなった時に死に絶えた。物心もつかないほどに幼い彼だけ、救命用のシステムで地球に送られた。
 地球に堕ちて、たまたま…本当に、たまたま…通りかかった者に拾われ、育てられた。
 人間とは違う「力」を持ち、ふるう彼は、破壊や殺戮といったコトにその力を使ってはならないことを育ての親たちから教えられ、また地球で、普通の人間のフリをして生きる事を撰んでいる。今のところ、それはうまくいっている。
 だが彼の善い所である人間を疑わず、善い面を見い出すこと。どこまでも純朴と善良な心。
 それは弱点でもあり、時に致命的だということを彼自身も判っている。
 だからこそ、彼は私を彼の正体を…人間として社会に紛れている時の名前と居場所…を知る者の一人にしたのだと私は思っている。
 彼と同じように、人々の為に手にした力を振るう事、破壊と殺戮の為に力を振るうことを善しとしない者。
 だが、彼とは全く対照的に…人間の暗い部分を見い出し、明るく灯が点っている場所には必ず出来る影の部分…暗くおぞましい部分に身を置く事を撰んだ私を。彼は私が後回しにしようとする人間の善い面を私に教え、私は彼が忌避している人間の暗さを、互いに見えないモノを教えるモノなのだと。
 彼にとっては耳障りで、その力を人の為に使う事を望み、そうしてきた彼を傷つけるかもしれないが告げなくてはならない事も確かに有る。

「姿形を人間に似せ、紛れ込む事は出来ても、君の力は大多数の人間が手にし、振るえるものでは無い。
 人間の限界を超えた力を振るう人間の姿に似ている者。
 それが、君だ。

 君や『組織』の者たちと振るわれた力。
 ただの人間達が見たら奇蹟か魔法と認識し…畏れずに居ること、人間の1人と認識することは不可能だ」

 神、あるいは悪魔と。
 言葉としては発せられなかった私の言葉を読み取った彼はそれでも言い募った。

「私は止める事が出来た」
「その力で、航空機のコントロールを奪ったものたちを破壊し、殺してか?」
「…場合によっては」
「君の力で殺して止めたら…コントロールを奪ったものたちは殉教者としてまつられ、君や『組織』を貶める格好の材料になる。
 
 彼らの意志は残り彼らの意志を継ぐ者が現れるだけのことだ」
「そうだとしても、なぜわたしを、そして『組織』に、この事故が起こった後も助けを求めないでいる…むしろ、『組織』を抑制しているのはどうしてだ?
 私たちはそんなに頼りないのか?信用出来ないのか?」

「君や『組織』の者たちの力が、頼りになりすぎるのが、『組織』に抑制するよう早急に求めた理由だ。

 人間が、人間の力、人間の意志が為した過ちは
 人間が、人間の力、人間の意志でなくては赦す事も償うことも出来ない。

 この事件…人間が人間の意志で行った行為の処理に、『組織』を動かすわけにはいかない」
「何を悠長な事を…この光景、この瓦礫の下にまだ居る生存者の救出を黙って見ていろと?
 今ならまだ助けられるのに」
「そのための努力を、生き残った消防士、駆けつけたボランティアたちがコントロールするのが困難な程の、抑えきれない士気で行っている。
 人間の力、人間の技術と意志で。
 私たちは、それぞれの人間の持てる力と意志で、人間として出来ることをする。要請が有ったとしても、私はもう一つの名前と姿で動く気は無い。
 『組織』の他のメンバーにも、そう伝えて欲しい」
 聞き終えた彼は、もどかしげだった。
 彼自身が言ったが、彼の力ならあの人間の破片が混じった瓦礫を除ける事はわけない事だ。
 そうするだけの力を持つ者。
 救いともなるが、人の手には余る力。
 彼自身の意志は善意でも、人々はその力が為した事、為すであろう事をみてしまう。
 残念だが、それもまた人間のすること。 

「誰もがこの事件と処理は凄惨さに、航空機のコントロールを奪った者達に怒りや憎悪を感じずにいられない。だが、憶えておいて欲しい。
 人間は彼らがコントロールを奪ったのと同じくらいに強い意志で絶望的な行為を回避し、立ち直る事も出来る。
 此処で作業をているスタッフらが証明してみせる。
 …しばらくの間、スタッフに加わる気は無いか?」
 地球に棲むものとして。
 眼を開き、耳をすませ、手と脚を動かせば出来ること、やるべき事、しなくてはいけないことは幾らでも有る。

 この世界には。

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[postscript]
 シチメンドウクサイ後書きだの言い訳は人間のフリしてる新聞記者側の話が発掘された時にでも。
(2001 1203)

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