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 それを見たのはジャンクヤードだ。


 ジャンクヤード、とは壊れたり、型が古くなり過ぎて使えなくなった様々な機械が溜め込まれた…要するにガラクタ置き場だ。
 絶対、と言っても良いほど人が来ることのないそこはエネルギーの無駄を避けるために照明が切られ気温も調整されない。常に暗く、冷えきっている。
 ある日、そうかなり昔の事だから『どうして』かは覚えていないし、その後にあったできごとの方が強烈だったから忘れてしまったが私はその真っ暗で墓場のような場所に迷い込んだ。
 とにかく、完全な暗闇の中を出口を探し、手探りでそろそろと進んでいた時に私はそれを見つけた。
 それまで私はゆっくりと、周囲にある死んだ機械たちの大きさや形を手探りで確かめ、慎重に通り抜けられる透き間を探し、行き止まりだったり危険な感じがしたら元の位置に戻れるように一つ一つの物の形を覚えながら進んでいた。進んでいたのだが、それはいままで触れて来た機械たちとは異質な物だった。
 ここに来るまでジャンクヤードの暗闇の中で触れて来た機械たちは必ずどこかが壊れて一部の配線が剥き出しになっていたり、カバーがはがされていたり、部品を再利用するためかパネルが切り開かれ、中のパーツが乱暴にむしり取られていた。機械特有の暖かみ…微かに流れる電磁気や静かで正確に刻まれる内在時計の息吹が感じられない。生き物で言えば負傷しているか死んでしまっているのだ。
 なのにそれは…まるで出来たばかりのようにどこも壊されておらず、どこかに流されたりしないようにワイヤーでしっかりと固定されていた。そして周囲の死んだ機械たちに傷つけられたりしないよう、周りの機械たちはのけられている。そっと触れてみると微かに電気や磁気が流れており、今にも消え入りそうなほどだったが弱く作動していた。


 生きている。                        


 この機械はこの暗い、機械たちの墓場に在るのに生きている。眠っているのだ。いや、眠らされている?でもなぜ?
 もっとよく確かめたくて、ぐるぐるとその機械をさぐり続けた。
 継ぎ目の分からない、きれいな耐熱プレート。曲線と直線の調和の取れた組み合わせで全体的にデルタ型を取っている…ウイング…?
 飛行機械、それも戦うための物。
 無駄のない、洗練されたデザインだと思った。昔、まだ人間が地球にいた…そう、地球にいたのだ。人間が。今はCHの支配下にある機械たちしかいないあの星だ…とにかくある芸術家たちが言った言葉は正しかった。

 特定の実用性のみを追求し、人の手によって作られた物はただそれだけで美しいと。

 この飛行機械がまさにそれだ、と感じた。
 そのとき、私の目に光が飛び込んで来た。
「…だれだ、そこにいるのは」という誰何の声。
 ずっと暗闇にあった目が突然の光に対応出来ず、頭の中に虹が散った。
「ドク?その声はドクですか?」
「ああ、君か…こんな所で何をしていた?」
「迷ってしまって…」
「そうか…コレに何か接触しているものがあったようなんで様子を見に来たのだが…君だったのか」
「コレって…このきれいな戦闘機?」
「きれい、か…」
 そういってドクは手にしていたライトで戦闘機を照らした。広大なジャンクヤードに比べると小さく貧弱な光の輪が機体に拡がる。
 耐レーザー塗装の青みがかった銀色。そしてウイングに小さくプリントされたRVA818X−LAYの文字が目に入った。
 手に触れて大体の形が分かっていたが…実際に目にした機体そのものの美しさに私は熱に浮かされたように思わずつぶやいた。
「こんなに…作りたてみたいにきれいなのに…どうしてジャンクヤードに置いてあるの…?」


「失敗作だからだ」


 即座に、隣にいたドクが答えた。
「…え?」
「失敗作なんだ。人間が乗れない」
「無人機なのですか?」
「……」
 その質問にドクは答えなかった。
「とりあえず戻ろう。ここは寒い…風邪をひく」





 あの子…レイは気づいただろうか?
 




公式には禁止されたことになっているCLS研究専用回線のホットラインを立ち上げる

起動

画面は映らない。向こう側からは何も言わない
いつもの事だ
いつものようにドクが一方的に話す

「レイを見つけました」
 ノイズ画面
「接触していました。ジャンクヤードの本体と」
「で、何か変化でも?」
「『きれい』だと。あと、『どうしてこの機械は生きているのにジャンクヤードに置いているのか』とも言っていました」

「それだけか?」
「それだけです」

 ノイズ

その後、通信ラインの向こうにいるであろう相手が尋ねてきた
「ドク、君の見解は?」
「あの子には…繊細な美意識、感情があります。そして感情移入能力が」

あるいは魂も

「ドク」
「何です?」
「あの子は『零』ではない。あまり入れ込むな」
「……」



「零は死んだ。あの子は零をモデルに作った機械の塊…シミュレーション用の人形に過ぎん」



 レイの脳には珪素とメタル、半導体のチップが詰まっている
有機物はひとかけらもない
あの子の全てがそうだ


「いつになったら、レイに『自分は人間ではなく、機械なのだ』と教えるのです?
いつまで人間のように育て続けるのです?」

「…あの子は鍵だ。CHを知るための。
そしてX−LAYを飛ばすための」

 通信が一方的に切れる



あの子…レイは多分X−LAYを飛ばすだろう。



 遠くない未来に
 そして再び、あの子供は死ぬ

 悪意は無くとも、自分では何もしようととない…何も出来ない…我々人間の願いによって死ぬ
人間の手に因って死ぬ

 

あの子供の望みはどこかに有るのだろうか?
 機械に魂は宿るのだろうか?



願わくば、その時が訪れた時
レイたちに安らぎがあるように。