Click here to visit our sponsor






※ 企画投稿時点で面屋佐吉さんに転載加工許可発行済み
SLEEP MY DEAR

「クリスマスプレゼントだ、チップ」
 平坦な声でオレイロスは言った。
 声に続いて、白熱電灯が一つだけの、薄暗くて窓のない部屋に空気が弾ける音が数度、響く。
 ドラマと違って軽い音が。



 コレは俺が、クリスマスの頃に決まって視る昔の夢だ。



 スノー・ホワイト、ジェローショット、アイス、エクスタシー、ブレン・クラッカー…。
 様々なクスリに浸かって『組織』に使われていた頃…要するにまだガキだった頃。
 俺、『チップ・ザナフ』というガキがモノゴコロがついたのはファヴェーラのまっただ中だった。
 上の連中が『聖戦』と呼ぶ戦災。
 あれで世界各地にゴマンと溢れた難民や孤児が集まって出来た、ありあわせの材料で作った小屋が集まる。

 ゴミ溜めのような…ゴミ溜めの方がまだまともな場所。ファヴェーラはその一つだ。

 ファヴェーラで俺みたいな、とりあえずモノゴコロつくまで生き延びられたガキがモノゴコロついた先もしばらく生きて行くには撰べる途は多くない。

 『組織』に加わるか。
 『組織』に入らず、フリーで働くか。
 フリーで居るコトは余程の力か『組織』を上回るバックアップが無いと難しい。
 女子供がフリーで仕事(といっても、限られている)をしているとファヴェーラではあっという間に目が付けられて喰いモノにされる。
 病院へ売られてバラされるなんてザラだ。
 『組織』に居れば足かせとしてクスリが打たれるが。ファヴェーラ内での組織の保護が受けられる。

 屋根の有る、寝場所。
 日々の食事。
 確実な週給。

「仕事」でヘマを踏まなければ。



 ファヴェーラでは雪が降らない。雨が降る、その程度。
 全体が風通しが悪いせいで、蒸し暑いと感じる。
 そんなクリスマス。



「クリスマス、というのはカキ入れ時だ。
 パーティで使うアップ系のスピードとエクスタシーが飛ぶように売れる。
 いつもはゴミ溜め・ファヴェーラには入りたがらない潔癖性の警察も、スコア稼ぎのボーナス・チャンス狙いで気合い入れてファヴェーラに入ってくる。

 だから『凧揚げ』はしっかりやれ、と私は直々に言って置いたはずだ。チップ」



 ファヴェーラに。
 警察が近づいて来ている時は『黄色』
 警察が入り込んで居る時、制圧を掛けている時は『赤』。
 一見、ガキが屋根やそこらを駆けずり回って遊んでいるようにしか見えない『凧揚げ』。

 実は『組織』に対する見張りと通知だ、と知っている警察はどれほど居たのたろう。
 監視人・オレイロスに「ボーナスだ」と呼び出された時。
 彼の、ファヴェーラの中でも比較的まともな小屋…窓が無いが、電灯が点いているし、湿気を防ぐためのビニールシートが床に何重にも敷かれている…が。
 手足を一ヶ所ずつ、高度に発達しすぎたため行使された時に魔法ととしか見えない科学技術が完成した今でもこういった場所ではかなり有効な、改造されたエアガンで撃ち抜かれて。

 クスリ浸けで溶けてきているガキの頭でも『なぜ、オレイロスの小屋が半地下で窓が無くビニールシートという安っぽいインテリア』なのかようやく分かった。

 ドジって『始末』する必要のあるガキ。
 病院にも売れない、外に立たせる価値も無い、幾らでも代えの利くガキを潰すためだと。

 窓がないのはガキの悲鳴と臭い、音が漏れないようにするため。
 ビニールシートは床に転がったガキを、こぼれた血をひっくるめて、くるんで捨てるため。
 今の俺みたいに。

「5人。
 大事な商品ごと西から入って来ていた警察に挙げられた」

 俺は、ヘマを踏んだのだ、と。
 監視人は言外に告げる。
 額にプラスチックの銃口が押し当てられた。
 ビニールシートに血が拡がっていく。

 命が、零れてる。

 クスリ浸けになった脳味噌のせいで手足の痛みは感じない。
 今、俺の目の前で俺の額にエアガンの銃口を圧し当てているオレイロスがトリガーを引けば。
 玩具とはいえ、俺の薄い頭蓋とクスリで溶けかけた脳に充分なスピードを与えられた金属の弾が食い込む。

 痛みを感じない脳に。

「…俺はまだ死にたくない…」
「私がここでお前を助けたとして、だ。
 ファヴェーラの中で生き続ける限り、だらだらとゴミのような惰性の『生』が続くだけだ。今ここでケリをつけて楽になれ。チップ」
「イヤだ…」
 血が足りなくなってきているのか、自分でそうと判るくらい小さい声だった。
 見えるのは黒いプラスチックの塊と黒く煤けた天井。

 黒ばかりだ。
 闇の色。
 その闇が。


「抵抗も出来ない状態の子供に銃を向ける、というのは感心しないな」


 しゃべった。

 「だれだ」と誰何する前に、俺の目の前にあった銃口が消えた。
 オレイロスが声がした方に銃を向ける。
 空気が弾ける音。
 電球が割れて、辺りはドロドロと触れられそうな闇になる。
 オレイロスのうめき声が聞こえた。
 そしてさっきのしゃべった闇が、暗闇とうめき声の中から言った。

「そこの子供。

 今、お前の前に途は二つ有る。
 ここで、薬で飛んだまま痛みの無い死を与えられ、受け容れる。ここで殺される途がひとつ。
 苦痛の中に身を置きながらも足掻き、生き続け、いずれ死にたい時に死にたいように死ぬか。

 撰べ」

 飄々としたものいいだった。
 飄々と、ここで殺されるか、死にたいように死ぬか撰べ、と。

「俺はまだ死にたくない」
「他には?」
「…たすけて…っ」

 返事は無かったが、答えは在った。
 床に転がっている俺の作った血だまりに、エアガンを握ったままのオレイロスの手が鈍く濡れた音を発てて落ちるのが、闇に慣れた目に映った。
 身体が、床から浮き上がる。暗闇に抱き上げられた、と判った。
「…誰?」
「通りすがりの押し込み強盗」
「オレイロスは…」
「お前を殺そうとしていた男だ」
「でも…」
「やさしい子供だな、お前。
 右手を離断して眠ってもらっているだけだ。きれいに斬れているから、目が醒めて治療師の処に持っていけば、くっつく。間に合えばな」
 選択を迫った時と変わらない口調で言った。


 これが俺と師匠が初めて会った時。
 俺がファヴェーラの闇から救い上げられた時だ。

 澱んだ蒸し暑い空気。
 汚物とすえた臭い、濃厚な血の匂いが満ちた暗闇のクリスマス。
 サンタクロースは黒い闇色にまぎれていて「通りすがりの押し込み強盗」と名乗った。
 クリスマスプレゼントは救いの手。
 「生きる」ではなく「活きる」という選択だった。



 最初に言ったが。
 コレは俺が、クリスマスの頃に決まって視る昔の夢だ。
 そして夢である為にか。
 決まって、師匠の最期の時とセットになっている。



 暗闇の、血だまり。
 さっきとは逆で、血だまりに居るのは師匠。俺が流している筈だった血。
 零れた血を、抑えようと無様に慌てている俺にあの飄々とした口調で師匠は言う。

「ワシがチップを救けたわけでは無い。
 あの時のチップのような、大人に使われて食い物にされたあげく闇に消える子供たち、『秘密の子供達』はどんな時代・どこの世界にでも居る。無数に居る。

 救いを求める事をも諦め、絶望の闇の中に居る。

 だが、チップ、お前は暗闇の中で手を伸ばした。
 死にたくない、たすけて、と。
 薬でたゆたう偽りの暖かさの満ちた闇の中の生とただ受け入れるだけの死ではなく、苦痛のを受けながらも活ききって死ぬ途を撰んだ。
 たとえ怖ろしくとも自分で途を撰び、次の一歩を踏み出す勇気を持つ者。

 チップ、お前はお前自身が救けた。
 お前の意志と意思が救けた。

 ワシがチップを救けた、だ?
 勘違いも甚だしい。

 修行が、鍛錬が足りないぞ、チップ。
 強くなれ。

 強くなって、その力を活きる事を希み、願いながらも許されない暗闇の中でもがく者。
 暗闇の中で手を伸ばしているのに忘れら去られている者に、使え。

 間違っても、その力でワシの仇を取ろうと思うな。
 ワシを手にかけた者…彼らもまた途を撰ぶ事が赦されない暗闇の中に居る者なのだから」


 コレが。
 俺が、クリスマスの頃に決まって視せられる、昔の夢だ。




 戒めの。




Comment=================================

 白くて無人なクリスマス(?)を書いた反動か、暗くて黒くてごみごみしたクリスマスを書きたくなったモヨウ。セットでタイトルを
『銀は希望、赤は欲望 まっすぐに向き合う2つの瞳が彼の心を照らす』と
『欲望のままに破壊と策略を繰り返す人形たちは、本当は理解してほしかったのかもしれない』
というCD『METAL BLACK -THE FIRST-』からパクろうか、とも思ったが濃いのでヤめた。


 オレイロス(ポルトガル語だったかなぁ…『監視人』)といい、南米らしいです。公式設定完全無視。
 手元に『COLORS』の29号「TOYS」が在ったのが最大の要因。凧揚げとエアガン(アメリカのは日本と違って金属弾です。ガス圧上げれば立派な兵器)。 聴くに堪えられない会議が有った日に現実逃避、配られた資料の裏に書きまくった。そして某所の企画に文投げ。(2000 1221)




■ 正面玄関