恋愛小説 b
ラーカス工場の先発隊が後発隊からの通信を受けたのは戦闘の爆音からかなり離れた頃だった。
『任務終了。今から合流する………それと医療班(メディック)を待機』
「負傷したのですか?」
『いや、違う』
たったそれだけで無線は切れた。
一体なぜ待機を命令して来たのか不審げだった先発隊のメディックは数分後に合流した隊長機を見て納得した。
アームにヴァンツァーのコクピットを抱えている。
それもかなり壊れたやつだ。中のパイロットが無傷ということが絶対にありえない。そしてそのもとヴァンツァーだったものは見慣れたUSNのものではなかった。
地上に降り立ったドリスコルにメディックが詰め寄る。
「珍しいですな。いつもは殺ってくるドリスコル大尉が捕虜を持ち帰るとは…それに今回の任務、極秘のはずです」
余計な捕虜など取らないはずたったのではないか、とメディックは言いたげだった。
第一、ただでさえ工場から持ち出した機材と原料がある。これ以上荷物を増やしてどうするつもりなのだ。
だがドリスコルはそれには構わず、彼独特の平坦な声で言った。
「御託はいい。さっさとBD用に処理をしろ」
「BD、ですか…」
一瞬、キツネにつままれたような表情で言う。
成程、BD用に処理すれは捕虜は捕虜ではなく、ただのサンプルの一つになる。
それにここにいるのはニルヴァーナ機関の関係者ばかりだ。機材も工場から持ち出したものがそろっている。
「たしかにここでやれない事はないでしょうが…気にいったのですか?」
そうかも知れないとドリスコルは思った。
あの時、ドリスコルが不意をついたにもかかわらずあのパイロットはすかさず反撃し、銃をヴァンツァーの急所である駆動部に打ち込んで来た。
ハード性能が同レベルだったとしたらアームの一本は取られていたかも知れない。
これ程の腕のパイロットをBDにしたら…。
パイロット経験のあるBDの方がデキが良い傾向があるのは確かなのだ。
大体、まともなヴァンツァーのパイロットのBDマテリアル自体が少ない。貴重だった。
これから先、しばらくはマテリアルを手に入れるのに不自由しなくなるだろうが、選択・淘汰を行えば使えるものはそれほど多くはないだろう。
使える、と思ったサンプルはぜひとも欲しかった。
例えあのパイロットが死んでしまってもすぐ近くには機材もチームもいるのだ。すぐに手当をすればどうにかなる…。
メディックがようやくこじ開けられたコクピットの中にもぐりこむ。
周囲に肉が焼ける異様な匂いと血の鉄錆臭が漂ったが、慣れているメディックは別に気にしない。手持ちの器具でざっとチェックを行う。
中から顔だけ出すと言った。
「脳に損傷はないようですが…こりゃ治療が先ですな。今BD用の処理をすればショックでダメになる可能性が高いです…ニルヴァーナの…グレイロックの病院まで持たなかったらあきらめた方が…」
「何としてでも保たせろ」
「…随分とご執心ですな。女性だからですか?」
「女?」
普段はあまり表情を見せないドリスコルの顔にいぶかしげな色が浮かんだ。
メディックは頷き、肯定すると再びコクピットの中に入り、手早く応急処置に取り掛かった。
ただでさえ少ないマテリアル。その上パイロット経験者で女性となるとさらに少ない。メディックとしてじつに興味深いマテリアルだ。研究のためにも彼女は生かさなくてはならない。
■ 正面玄関