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Tough-Rough-Laugh (Based on game'SOUL HACKERS'. Disclaimer)
注: ・ゲーム『ソウル・ハッカーズ』ネタですが著作権侵害の意図は有りません。






 人間よりも

 彼が使い、時には殺すアクマに近い。

 「おれは平和主義者なんだ」と、彼は言う。

 アクマのいる場所へ行く時「気をつけて」と声をかけるスプーキーズの仲間に向かって彼は言う。

 平和主義者だから,できるだけ悪魔とは遭っても戦わない。戦う前に話し合って、出来るだけ戦闘は回避すると。

 半分、ウソだと彼と一緒に出るアタシは知っている。

 弱いアクマとは遭っても戦わない。交渉したり、他愛の無いハナシをしたりするだけ。 

 でも自分よりも強い者、強いアクマと遭うと一言かフタコトくらいの言葉を交わすだけで、戦う。

 嬉々としてアタシとナカマに指示を出し、自分は前線で剣を振るうコトをアタシは知っている。

 ファントム・ソサエティーのサマナーやアクマと戦う時は氷よりも冷たく、容赦なく戦うコトをアタシは知っている。

 アクマよりもアクマのような人間。

 アクマを使役する『サマナー』。

 サマナーたちは、時にアクマを使役するため…あるいは使役するが故に。

 アクマのことを知ろうとする。そしてときに、アクマよりもアクマのようにになっていく。

 アクマに魅入られた人間。

 アクマのような者たち。

 彼とともに過ごす時間が蓄積していくのにつれて…一緒に出てアクマやソサエティーのサマナーと戦う時間が多くなればなるほど。

 彼も、アクマに魅入り、アクマのようになってしまった者の一人だとアタシは思っていた。

 その彼が、泣いている。

 涙を流しているわけではないけれど、彼が泣いているとヒトミが囁く。

 だから今は何も言わないでそっとしておいたほうがイイと。

 アタシには判らない。

 悲しい時に、人は泣く。

 敵の、フィネガンが、死んだ事が。

 彼は悲しい?

   協力するのは承諾してもいいが、コードを解除する時まで。

   そこから先は早い者勝ちだ。

 アクマだらけになったアルゴン本社。エントランスで会ったフィネガンとした約束。

 人間相手で敵相手の口約束なんて。バカげてる。

 アンタ、とうとう頭がどうかしたんじゃない?ってアタシが言うと。

 かもな。

 唇の端を、わずかにつりあげて。

 強いアクマと戦う時に浮かべるのと同じ表情で。

 彼が返してきたのは否定でもなければ肯定でもない回答。

  階段を登る。

  エレベーターで昇る。

  コードを解除する。

  時々、アクマと戦闘。

  繰り返される何秒、何分、何時間。

 教訓。

 初めは異常なコトでも短期間で回が重なると普通なコトと変わらない。

 何年、何ヶ月、何週間、何日か前までは彼はハッカーではあったけれど、サマナーではなかった。

 ヒトミはヒトミ。ただ一つの魂(ソウル)、ただ一つのココロをひとつの身体に持った一人の人間で、アタシことネミッサは純粋にネミッサで『殻』が無かった。   

 彼もヒトミもアタシも。

 奇妙で異常な今の状態が普通で当たり前のコトになりかけていた。

「しっかり見て、憶えておくことだ…。

 サマナーを続けていれば、いずれオマエにもこんな最期がくる…」

 自嘲。笑い。

 己の不幸を愉しむコトがユーモアというモノなのだと言ったのは誰だったろう。

 ヒトミ?

 フィネガンは笑いながら逝った。

 自分の身に起こった事、自分の選んだ途、サマナーという己の能力を嘲いながら。

 彼が泣いている、だからそっとしておいて。

 アタシのすぐ近くでヒトミが囁く。

 彼は無言で、廊下の壁にもたれかかるように倒れたフィネガンに近づいた。

 ひびが入り、ズレたサングラスを直す。

 乱れた服も整える。

 まだ乾いていない、フィネガンの血が彼の手に移る。

 赤とも褐色とも暗紅色ともつかない色の液体で濡れた自分の手を眺めながら、彼は言った。

「尊敬してたんだ」

 フィネガンのことを?

「そう。

 敵だったけど、強いサマナーだったろ?だから最初に戦って余裕かまされて逃げられた時、メチャクチャ悔しくて次に戦うときは絶対勝てなくてもせめてイイ勝負まで持ちこみたくて色々考えた。

 だけど、下で会ったときにはてっきり戦闘かと思ったのに協力しないかって話になったとき、嬉しかったんだ…。

 あのフィネガンが俺みたいな新人サマナーにまで協力要請するってコトならファントムの、ひょっとしたらフィネガンでも手におえないような強いアクマが居るってコトと、俺もサマナーってフィネガンに認識されたのかって思うと…

 何か変なコト、らしくないコト言ってるな…俺」

 そんなこと無い、と言いたかった。

 なんとなくアタシにも解るって。

 彼にとってリーダーのスプーキーがハッカーとしての師匠で兄のような者だとすれば、フィネガンはサマナーとしての師匠だったのかもしれない。

 「強くなりたければ、強い相手に挑戦して相手の技を『盗め』」と言葉ではなく、戦闘という態度で伝える師匠。

 リーダーとの、ハッカーとしての戦闘では自分の血は流れない。

 けれど、サマナーとしての戦闘は流血をともなう。

 時には命を落とす。フィネガンのような強い者でさえ。

 彼はフィネガンの血がついた手を握ったり開いたりした。そのたびに乾いた血が、剥がれて少しだけ床に散らばる。

 行くか、と彼はあの笑みを浮かべて言った。

 怖くないの?

 怖い。だけど、ネミッサやナカマが居るからイける。

 アタシたちはコントロール・ルームのドアに手をかけた。

 アタシは人間よりもアクマのようだと思っていた彼が、まだ時には泣くこともある人間で、アクマを知ろうとしたりすることはあってもアクマにならないなら、最期の一線を踏み越えないなら彼はサマナーだ、と。

 信じられる、一緒に戦ってもイイ人間だと思ったコトは今は言わない。彼には伝えない。

 アタシは、ネミッサはいつか…どこかでやるべきこと、なすべきコトのために彼と別れる。

 その時に、その時までにアタシがこんなことを思っていたってコトはとっておこうと思う。むしろ、ヒトミの口から彼に伝えて欲しい。

 そしてその時に、ヒトミから彼に訊いて欲しいと思う。

 アタシがいなくなったら泣くか、と。

 彼には泣かれるよりも、強いアクマと会った時に浮かべるあの笑みを浮かべていて欲しいと思っていた、と。