あんまりにも嘘くさい事がぶっ続けて本当になってしまうとかえって現実感が薄いのかなあ
一度きりだったら、変な夢でも見たって事で納得しちまうところだろうけど
何回も起こったら『普通』になっちまう
人間って慣れてしまうモンなんだろな
時間跳躍、なんて事もさ。
雪が薄く積もった都市の中をアクセルは独りで歩いていた。
今回跳ばされた場所はどうやら、ニューヨークのマンハッタン、らしい。
らしい、と言うのは見知っている風景…テレビや絵はがきで良く出た高層建築や有名なオブジェ…がただの瓦礫になっている事。
高熱で灼かれた事を伺わせる黒く煤けたコンクリートと溶けた鉄骨、一度溶けて様々な物を巻き込んで固化したガラス。
薄く積もった雪で覆い隠されているものの、明らかにソレと解るモノ。
人間の死体。
寒い上に曇っているとはいえ。
昼間だというのに、生き物の気配は全く無い。
積もった雪が吸い込むのか、音や匂いさえも。
「…『聖戦』のあたりかね…」
呟きながら、寒さがしのげそうな場所を探して歩いていく。
時計かカレンダー、今の時代を正確に知る手かがりを探そうとは思わなかった。
初めて『跳ばされた』あのときから、アクセルに有る時間というモノは己の『時感』のみ。
今、自分の居る正確な時間を知ったところで、いずれまた予想も付かないときに『跳ぶ』。
跳ばされたあのときに戻ったとしても、再び跳ばされないという保証は無い。
天井が残っている建物を物色して視線を巡らしていて。
何かがおかしい、と感じた。
妙なモノが、目に映った、と。
一様に積もっている雪が、全く積もっていないモノが。
遠目には病気か怪我をしている猫がうずくまっているのかと思った。
近づくとソレは褐色の、古くなったボロ布をまとった者のように見えた。
手を伸ばせば触れられる距離に立って、猫でも褐色のソレがボロ布でも無い事が解った。
「…誰だか知らんが、死にたくなかったらとっととこの島から離れろ」と。
アクセルの目の前に居る塊がうずくまり、顔を伏せたまま面倒くさそうに言った。
聞き覚えのある声。
そして嗅ぎ慣れた匂いが鼻をつく。
鉄錆びを思わせる、血の匂いが。
「ソルのダンナ…ケガ、してるの?」
触れようと伸ばした手は乱暴に払いのけられた。
強い拒絶。
わずかに上げられた顔は、確かに彼の、ソルのものだったが。
アクセルが憶えているソルとは違って、目の前の彼の視線には他を圧倒する力は無く、ただ昏い色が籠もっている。
目の昏さとは全く対照的なくらい、鮮やかな赤い血が出血し続けている額の紋章。
そして彼のまとっているボロ布のように見えた物が、布などでは無いのが解った。
左腕の有るはずの場所に腕は無かった。
まるで腕の代わりのように伸びている翼…褐色に変化した血で染まっている…が身体を包んでいた。
「見てのとおり、オレはギアだ」
額の紋章から流れる血が滴り落ちる。
アクセルはとっさにバンダナを外して出血し続けている彼の額を押さえつけていた。
「よせ」
「だから?
ギアだからって何だよ?
親しくは無かったかもしれないけど、見知った者がケガして血ぃ流して…利き腕、使えないで寒い処で独りで苦しそうにしているのを放っておけるか!」
最後の方はアクセル自身でもそうと解るほどの怒鳴り声だった。
まくし立てるアクセルの勢いに圧倒されて、おとなしく額の手当を彼は受ける。
手当を終えて、隣に座り込んだアクセルに視線を合わせないまま彼は言った。
「…オレは、お前を知らない。人違いだ」
「『今の』ダンナは知らないだろうな」
「…?」
「まぁ、そのうち、わかるから。いっか。
ところで、もっと大事なコト、何か忘れてない?」
言われて隣を見ると底意の無い、純粋な笑顔があった。
名前ではなく、サンプルナンバーで呼ばれるようになってからは一度も向けられた事の無い笑顔。
今はまだ名前も知らない青年が、何かを待っている。
気恥ずかしくて、雲を透かして陽が見えていても今にもまた雪が降り出しそうな空を見上げて言った。
「…ありがとう」と。
案の定、また雪が降り始めた。
「どういたしまして」
もう一度、隣を見やると名前も聞かなかった青年は消えていた。
幻でも見たのか、と独り残された彼は思った…が。
彼が座って居た場所だけ、雪が溶けて消えている。
彼がここまで歩いて来た、足跡が残っている雪面。
今、降ってきている雪が足跡も彼が居たという形跡を消してしまうのだろう。
それでも遺されたモノ、あの屈託無く笑う青年が確かに『居た』という証拠が多くは無いが有る。
手当するのに使ったバンダナ。
「放っておけるか!」という言葉。
…人間も、まだすてたものじゃ無いか…。
静かに降り続ける雪を透かして太陽を眺める。
「…ソル、か…」
太陽を指す言葉。
先刻、いきなり現れて叱咤し、現れた時と同じように唐突に消えた青年が自分に向かって喚んだ言葉。
悪く無いと思った。
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Comment
某同盟元締めサイトのクリスマス企画に送りつけたブツ。
何処がクリスマスなんだかね、コレ。廃墟で無人で薄く雪が積もったマンハッタンが書きたかっただけのようだ、自分。反省。
『Guilty Gear X』のアクセル対ソルのバトルの時、バトル前にアクセルが「ダンナ、久しぶりだね」と他のキャラとのバトルでは見せない特殊セリフが有ったせいかね。
久しぶり、ってことはだ。
『Guilty Gear』の時とは別の時間(時点)のソルと会っていると推定。
どうでも良いが。
雪の降る空を透かして見る太陽はキレイなのです。
ナムコのゲーム『ゼビウス3D+』だったか…アレのステージ4をクリアした後にちょっとしたデモ。
「雪空の太陽に向かって上昇、大気圏離脱(そしてステージは宇宙へ移る)」というシーンがあったとうろ覚え。
アレ、良くぞ作ってくれたと拍手。
文書組んだ日 2000 1219
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