56=2*2*2*7
56→1.2.4.7.8.14.28.56
※ 28も踏むことを推奨 ※
「ラムズを手に掛けるのは平気でもアバルやガゼルを殺すのは違う?」
問われた時は酷く疲れ、考えるのも億劫。そんな状態だった。口をついて出た回答は「わからない」という言葉。
YE,NOT GUILTY
自分でもそうと判るくらい、煙と催涙ガスで枯れた声。
携行用燃料が小さく燃える明かりだけが頼りの暗闇。
俺に向かって問いを発し、傷の手当てをしていた少女。
煤けた顔。
闇に溶け込んでいてどんな表情なのか、判らないが。
黒曜石のような瞳が僅かな明かりを反射して濡れたように光っていた。
数日前。
地下でえらく厳重な取り調べと身体検査を受けてようやくシェバトの工作員たちと接触した。
予想以上に、俺の言うことは簡単には信じてもらえなかった。
簡単に信じろ、というのも無理だろう。
『降りたい』という敵の言葉を、信じろというのが難しい。
地下深い暗闇の中、強烈ライトを直接顔に当てられて何度も繰り返し問われた。
「カレルレンは何を約束した?」
何も。
「あるいは天帝か、法院の連中の命令か?」
誰でもない。
「清潔で快適な街での生活、地位と名誉、部下を捨てて何でわざわざこっちに降る?二重スパイ目的か」
違う。
手足は動かないように固定されていた。
延々と続く、簡単な回答を返すだけの問い。
俺の身体中に、ゲブラーの職員には当然のように右手に埋設されているIDチップ以外にも俺自身でも知らないうちに付けられていた3桁近い数の大きい物は親指の爪程度、小さい物は砂粒サイズのインプラント。
敵味方識別用のマーカー、発信機、抗誘導剤、抗自白剤、通信から目的不明な物まで。
彼らのデータにも無い、目的も反応条件も不明なインプラント。
「…インプラントにいきなり反応されて頭に入ってる情報ごと、ドカンってのはゴメンだしなぁ…」
「でもこれほどの数になると『上』の設備を使わないと解除は出来ないでしょう」
逆光で見えない闇の中から聞こえてくる2人分の声。
地下特有の冷たく湿り、淀んだ空気。煙草の匂いがしたような気がする。
「本気で、俺達に協力する気か」
そうだ。
「裏切ったのがバレたら家族が危険になると知ってるか」
わかってる。
だけど、あいつらは簡単にはやられない。
ライトが切られた。
真闇。
いや、刻みの荒い煙草の燃えるジリジリという音と赤い点の様な光があった。
「…手っ取り早くここでいろいろ詳しく謳ってもらいたいところだがな、ワードが引っかかってドカン、てのとかはゴメンだ。
本気でこっちに協力するってのなら行動で見せてみろ。
謳ってもらうのはこっちに降るのが本気だとわかって『上』にいってインプラント外してからだ」
暗闇の中で、俺は頷く。
手足を固定していた粘着テープが剥がされ、新しい服が与えられた。
地上に出た後。
俺とシェバトの2人はソラリスの地上へ降りてくる補給船、特にラムズ狩りの船を襲い始めた。
たった3人だったり、時には他のチームと連携したりしながら襲う。
先刻、現場から逃げる際。
つい一年もしない前までは仲間で、同僚で、守るべき国民で、ひょっとしたら部下や生徒だったやも知れないヤツを、俺は殺した。
「ラムズを手に掛けるのは平気でもアバルやガゼルを殺すのは違う?」
問題。
アナタは店頭で肉を買う時にパッケージされた肉が数日前までは生きて動いていた動物だったコトを想像したコトがアリマスカ。
自分で飼い育てていた家畜を殺したコトがアリマスカ。
重厚な病で耐え難い苦痛に苦しんでいたり事故で脳死状態となった家族を安楽死の大義名分の許、殺したコトがアリマスカ。
その時、どんな気分になったか憶えてイマスカ。
わからない、と最初の、彼女からの問いに答えた後。
「…ただ、どちらを殺した時でもイヤな気分になれるのは一緒だな…」と付け加えた。
これから何度も、こんな気分を味わえるのだろう。
「貴方が私たちと行動を共にする限り、今日の様なことは何度でも起こります。
最初の村での事、憶えてます?」
「ああ」
「ああいった事も何度でも起こります」
ソラリスの人狩りの船。
船の前に集められた子供、幼児、赤ん坊。肉体労働には不向きと見られているためか、女が多かった。
俺たちが船を襲い、子供を取り返す。
怒りと戸惑いの顔を浮かべた村の大人たち。
口減らしをしないと今年の冬は越せないのかもしれないというのに、なんていう事をしてくれた、と責められた。
「子供がどうなるか、知ってるのか?」と俺が問うと。
「街へ行って働く。給料は前払いで今もらうはずだった」と答えた。
「どんな仕事をしてるのか、知ってるか?」
「色々だ。色々な仕事だ」
「帰ってきた子供は?」
「居ない。みんなそのまま街で暮らしたり、死んだりする」
貧しい村。
ソラリスへ行けば、第3層行きかソイレント行きかの選別と洗脳を受け、蟻のように働かされる。餌と寝床付き。この村とソラリス、どちらが良いのだろう?
村で俺のした事、ソラリスを捨てた事は間違っているのかも知れない。
だが、ソラリスのやり方が最良なわけでも無い。
私たちがしている事は水平線に向かって泳ぎ続けるのと同じ。
決して報われない努力なのです、と暗闇の中から彼女は言った。
「今ならまだ…貴方の生まれた国へ、帰れます」
「いや、俺はこうすると選んだ。こうするのが少しはまともな世界を子供たちに遺せるだろうと。
それにお前は決して報われないと言ったが…だろうがどんなに暗い夜だろうが、明けない事は決して無い」
「…そうだと良いのに…
他に、何処か痛む所は?」
「無い」
恐らく、迷いも。
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[Title] YE, NOT GUILTY.
[Post Script]
関連ナンバー→70
追記(2001 1016)
「ある日、いきなり数カ所の掲示板に一斉に書き殴る」シリーズ。
確か、弐号の身体がクソボロ状態で
「朝、目が醒めても一日中椅子に座ったまま立ち上がることも苦痛に近い、体力無し状態」の時に壱号と「一日、一個、小話作れ。そのかわりこっち(壱号)は画を描く。画が見たかったら、小話をヨコセ」という取引。
強制リハビリ、血ィ吐くまでキック。
ドコの掲示板に書き殴ったか忘却。
書き殴られた掲示板の管理者の方、お知らせ下さい。
貴方に加工・転載許可証が書き殴られた時点で発効中。
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