84=2*2*3*7
84→1.2.3.4.6.7.12.14.21.28.42.84
※ 28と70を踏んでから入って来てください ※
昼間、脳が灼けつくような熱気がこもる街が活発になり始めるのは陽が地平線に隠れる頃から、だった。
通りには、僅かな場所が有ればそこを埋めるように色とりどりの天幕が張られ、様々な物品が並べられる。
交易者、キャラバンが運んできたモノ・・・職人の手からなる布、きらめく細工物、陶器、ガラス、金物。通りを流れる人々の腹を満たすための食物、強烈な香りと色鮮やかさで食欲をそそる香辛料。
小さな露天のほのかな明かりで内側から天幕と並べられた品物が照らされて、薄暗がりの中を夢か幻のように種々雑多な色を纏った人々と物品が行き交い様々な言語が飛び交い、人が行き交う通りの中でも。
抜きん出て高い長身。
何よりもそれ自体が光っているのではないか、というほどに見事な白銀色の髪の『彼』は遠目からでも目立った。
煙草のヤニと度数が高い安酒の臭いが染みついた天井と壁。先刻まで西日が射し込んでいたせいで、熱が籠もった狭い部屋はこの二つの臭いが強烈に匂った。
家具らしい家具はベッドしか無い部屋。
眠るコトでは無く、寝るコトが目的の部屋。
寝台が清潔なだけでも良しとするべきだろう。
どのみち、この部屋を取った本当の目的は眠る為でもなければ寝るためでもない。
小さくても夜市の通りを一望できる窓が有る為だ。
部屋にいる、砂漠用の身体のほとんどを覆う、旅行用のコートを身につけた二人連れは一見、この街ではありきたりの『都市間を行き交う隊商の護衛を請け負う男』と『旅行者相手に商売をしている女』に、宿屋の主には見えた。
その部屋で。
窓枠に身体を預け、まだ少女と言ってもいいほどの幼さを残した娘が。
はだけられた職人の手からなる陶器のような白くきめの細かい肌に欝血斑が付けられていた。
胸に、首筋に、肩口に。
鋭く小さい痛みとともに、何かの儀式のように痕が付けられていく。
時々、痛みがきついのか。あるいは何か、痛みに伴って別の感覚を呼び起こすのか。
娘は何かに耐えるように窓枠に爪を立て、唇を引き結んでいる。
相手の、男に縋り付く事さえしない・・・未だ知らない幼さに。
憐れみを覚えて、きつく吸い上げて付けた痕を塞ぐように舐めた。
痛みの直後に襲ってきた、猫が嘗めるようなざらついた舌の感触。予想が出来なかった彼の行動に、娘は声を噛み殺したが、引き攣り跳ねる身体は抑えられなかった。
途中まで脱がせた服が、捩れて絡まり、かえって動きを拘束する。
敏感な反応と、上気した肌に絡まった服がかえって扇情的で、男が先刻まで感じていた憐れみは加虐心に入れ換わった。
小動物を狩ることを覚えたばかりの猫が獲物を遊び、楽しみながら追い詰めるように。
ことさら、ゆっくりと服の中に侵入させた手で滑らかでかすかに汗ばんできた肌の手触りとその下にひそむ柔らかな肉、しなやかな筋肉の流れを堪能しながらも。
男の口唇は休む事無く肌に痕を刻み続ける。
行為に没頭している、としか思えない男が。
醒めた声で娘に窓の外を振り返らずに見下ろすよう、娘に示した。
「あれ・・・が・・・?」
「そうだ。俺のことを捜している。しかも単独でだ」
夜目にも鮮やかな白銀の髪、精悍で整った顔立ちがはっきりと見て取れた。顔だけでなく仕草、身にまとう空気、露天の店主の一人と話している唇の動き。
娘は眼を動かす事だけで、眼下の男を観察し続ける。
「覚えたか?」
娘とは対照的に未だ服を着たままで、息さえ乱しておらず、僅かに視線を上げて男が冷たい声で娘に問うた。
声にのせて答えると自分の未だ発した事の無い、そして必要のない言葉まで発してしまいそうで、娘は頷くだけで答えに替えた。
上出来だ、と。
視線を上げていた男がつぶやき口に含んだ乳首に軽く歯を立て、形を確かめるように舌で転がす。
耐えられなくなった娘の唇から悲鳴のような嬌声が零れる。
一瞬、通り男が安宿の窓を見上げてきた。
天頂の蒼を詰め込んだような薄い水色の双眸。視線が合う。だがほんの一瞬だけで、通りの男は視線を元に戻した。
「どうして・・・っ
見られたら・・・」
「この角度からだと暗くて殆ど何も見えないさ。
よしんば、気合で見れたとしてもナニしてるのかは瞭然だし、知り合いの情事をテバガメするような野暮な奴じゃねぇしな」
「や・・・ボな奴・・・?・・・まさか・・・」
「奴さん、『ジョシュア・リー・ブラック』の名前は知っていても面は知らない。
一昨日なんか目の前で一緒に飲んでクダまいてるいるオヤジが探している当人だとはとうとう気づかなかったしな」
「・・・っ!捕まったらどうするつもりだったんですか・・・っ・・・」
相手はソラリスの・・・」
抗議の言葉は最後まで続かなかった。
ジョシュアが娘の声を唇で塞いだために。
唾液が混ざり合う。
重なっていた口唇がゆっくりと離れる。
間にあった透明な細い糸が伸びるほど、深く触れ合っていた唇を離して彼が言った。
「相手が上物の時こそ慎重かつ大胆に、だ。
奴が地上に降りて来ているのが、任務なのか、全くの個人行動で俺とコンタクト取りたがっているのか…ただの観光でガイド募集ってコトはねぇだろうな。
捕獲して、謳わす。
どこかの個室で奴と二人っきりになってくれ。
今の俺たちみたいな状況に持ち込んでくれるとなおイイ」
「…わたしは『餌』…?」
「そうだ」
「わたしで『標的』を釣れると…」
情報を得るため。
周囲から全く不自然に見えないよう、手っ取り早く『獲物』に近づくには『美味しそうな餌が付いた罠』…平たく言ってしまえば異性が色事がらみで声をかけるのが近づきやすい。
普通の、頭上に空を仰ぐ者が相手なら『餌』が金銭になる事もある。
だが、先刻眼下の通りを歩いていったあの男。
今回の『標的』は頭上に地を仰ぐ者。
『金銭』といった地上の者の価値観を擽るよりも、ヒトならば逃れられない『性』とそれに伴う快楽を刺激する『餌』の方が罠にかかる確率は多少は高いだろう、と彼女にもわかる。
だけど。
何故、初めて地上に降りた自分に『餌』役…しかも『標的』が大物ならば、『餌』としての経験豊富なスタッフを当たらせた方が良いのではないかと問いたかった。
「『奴』自体がソラリス側の餌だった場合、顔が知られているスタッフを当たらせるのは危険だ。
だからこそ、顔が知られていないお前を呼んだ。
判ってると思うが、本名は絶対に名乗るな。擬装用の名前と経歴だけを使え」
命令。
指令。
「相手がガゼルだからといって気張るな」
彼は彼女の顎を片手で掴み、彼女の状態を確かめた。 今にも涙が零れそうなほどに潤んだ瞳。
上気し、うっすらと湿った肌。
汗の匂い。
最初に顔を合わせた時に彼女が纏っていた触れれば斬れそうな程の、冷たい緊張感は全くと良いほど無い。
「…お前ならできる…」
力をこめると折れてしまいそうな、細い彼女の体をそっと抱き留めてはっきりと彼女にだけ聞こえるように。
確かめるようにもう一度、彼女の耳元で囁いた。
「お前なら出来る…ユイ」と。
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[Title] FAKE (PCCB-00166)
[Post Script]
…見なかった事にして下さい。
「プロ」の軍人だの工作員なら、ハニートラップくらい仕掛けるだろう…。