98=2*7*7
98→1.2.7.14.49.98
「お前に預ける」
それだけ言われて俺はいきなりギアのオーナーになっちまった。
Insurance Money
さて。
コレはまだオレがキスレブの路地をうろつくガキだったころの話だ。
吹き抜けのフロアに面した画面には二機のギア。
どちらも重量級の接近戦型。
画面下のフレームにはそれぞれのギアのパーソナル・コードとパイロットの名前、オッズが表示されている。良くあるバトリングのように見える。
俺は視線が刺さるとしたら画面に穴が開くほど、先刻のバトルをリプレイしている画面を見上げていた。
ついさっき、俺がボロ負けした試合だ。
キスレブと言うと『ギア』というくらい、キスレブの首都ノアトゥン近辺ではギアに何だかんだで関わった仕事でシノイでいる者が多い。ギアの発掘、パーツ屋、修理、レストア、各種の工房。
だが、キスレブの町中で実際に動くギアは三桁いるはかも知れないが、四桁は行っていないというのが大方の連中のヨミだ。
理由は簡単。
キスレブでは確かに沢山のギアが発掘されてきた。
レプリカも作られている。
だが、所詮はモノだ。
バトリングや『作業』で壊れる。
発掘されたり修理してもパーツが一部欠けていたりする。
パーツを盗らない、信用のできる技術屋の手で行われなくては修理とレストア、メンテナンス。
結構な金食い虫。それでも、ヒトの手には余る荒事な『作業』には欠かせない強靱で無比なモノ。それが、ギア。
完全に動くギア一機丸ごと所有してバトリングだの傭兵だのでシノイでるパイロットなんか総統府関係を除けば二桁、居るのかアヤシイところだ。
で、逆に言えばパーツは有る。どんなパーツなのかというデータだのもかなりの数が有る。
コクピットも『パーツ』としてだけなら結構な数が有る。
腕を売り込みたいプロのパイロットやバトリングに憧れるガキは無数に居る。
かくして、キスレブの各所にコクピットだけは本物を使ったシミュレーション・バトリングのアリーナが作られた。
これが、俺みたいな道路でたむろしていたはっきり言ってマトモな稼ぎだのシノギが無いガキにはイイ稼ぎ場になった。
金を賭けて、試合をする。
エントリー料として一定の額がアリーナにさっぴかれるけど結構な金額が手に入った。特にランキングが上のヤツや、プロのヤツ。オッズの高いヤツと試合して勝てば、プロにとっては遊びにつぎ込むハシタ金でも子供の稼ぎとしては相当な金額が。
俺と仲間、キスレブの煤けた空気のせいでいつも咳をしている母親がどうにか食っていける程度だったが。
俺はD地区のアリーナで勝ち続けた。
なのに、さっきのボロ負けな試合。
アリーナの設定、同じ様なタイプのギア。情報通のハマーも知らないパイロットネーム。
画面は次の試合が始まるまでコクピットやカメラワークを変えてご丁寧なことに各種のデータの表示付き、エンドレスでリプレイ。
のらくらと俺の攻撃をかわす『S』とかいうパイロットのギア。
重量級の接近戦型同士だと当たると一発が『重い』ため勝負は数発で極まる。
突っ込んで行った時に、「かわすついで」のように回り込まれて後ろの接続部分…人間だったら延髄のあたりか?…に一発叩き込まれて試合は終了。
オッズは試合中も変動するOPENでは1対1.2だったが、試合開始前で倍率が固定するCLOSEでは『S』に関する事前情報が無いためか1対5。
ボロ負けだ。
「そんなに見ていたら画面に穴が開くぞ『RICO』」
気配も足音も無く、いきなり後ろから降ってきた声。
慌てて振り返った先にはレインコートを着た、俺の目には『オッサン』な年代の男が居た。亜人の俺ほどではないが、やや尖り気味の耳の人間。
「ひょっとして、アンタが『S』?」
「そうだ。
負けた原因を知ろうという心意気は良い」
「で、勝ったアンタが負けた俺に何か用か」
「ああ、コレを渡しておこうと思ってな」
賞金が振り込まれたエントリーカードを『S』は手品か何かのように差し出した。
「…ナンのマネだ?」
「勘違いするな。三日後にまた来る。その時またお前と試合したい。その時のエントリー料だ」
「アンタ、バカか?それとも俺を哀れんでるのか?
試合に負けても俺にだってエントリー料くらいだったらある」
「いや、こっちから売る試合だからな。ワシがエントリー料を持つ」
このオッサンは、真性のバカに違いない。
3日後、俺は『S』と再戦して俺は何とか勝った。
その時も『S』は試合後に俺に話しかけてきた。エントリー料の請負。
「3日後、またお前と試合をしたい。だが副業の方が忙しくて来れない時は代理の者を試合に寄越すが良いか?」
「構わないけど…その、代理のヤツって強いのか?」
「強い」
「だったらいい」
アルファベット1文字の名前でエントリーするヤツだ。エントリー料はこっちが持つから勝つまで試合しろと言って『S』はさっさとアリーナから消えた。
俺にだけ試合をしかけて、極まるととっとと消える『S』というオッサン。あからさまにアヤシイからハマーや仲間につけさせたが完全に撒かれた。
「プロ、じゃないッスかねぇ…」気配を感じさせない仕草、入り組んだD地区の路地を知り尽くしたハマーや仲間を撒く足。
「プロだったらこんな怪しいD地区までわざわざ来てアリーナに入るか?
ギルドなり教会のメモリーキューブからオンラインして入りゃすむだろが」
「何者なんッスかねぇ…」
3日後、代理のヤツだという『J』とか言うヤツと試合。火器装備のギアを使うヤツだった。試合する度に、ギアのセットアップを遠距離狙撃型だの中〜近距離で連射の効く火器で弾数を叩き込む高機動型だの変化させる。
その日だけで『J』とだけ延々と45試合くらいしていた。
OPEN、CLOSE共に変動しまくるオッズ。
盛り上がるギャラリー。
俺より一回りくらい年上のように見える、ツヤのない黒のコートを着た男…『J』がコクピットを降りるとき俺に向かって指を3本だけ立ててエントリーカードを投げて寄越した。
3日毎に、アルファベット1文字の名前の連中との試合が続いた。
ブレードを使うヤツ、俺みたいに飛び道具や武器を持たず格闘をするヤツ、様々。
丁度一ヶ月して、また『S』がやって来た。
何も言わないで俺はいつものギア。ヤツは最初に俺と試合した時のギアをセットアップ。時間制限無しで試合開始。
5戦。
2勝2敗1引き分け。
たった5試合するのに要した時間が2時間以上。
試合が終わった後、俺は何となく『S』には決して完勝出来ない気がした。
相変わらず足音も気配も無く俺の側に来るとやはり手品のように手のひらにカードを取り出す。エントリーカードではなかった。
「何だよ、コレ?」
「ギアハンガーのカードキー。
お前に預ける」
一瞬、何を言われたのか俺はわからなかった。
「カラっぽのハンガーか?」
「まさか。
旧式だが動くのが入ってる」
「何でだ?」
「あ?」
「何で俺なんかにそんなモノよこす?」
「お取り込み中の所、申し訳ありませんが『S』様宛に緊急のお電話が入ってます」
俺の質問は慇懃に割り込んで電話の子機を差し出して来た店のオペレーターに中断させられた。
受話器を受け取った『S』の着ている煤けたコートの袖からどこかで見たことが有る造形のカフスが見えた。
電話の会話は店内の喧噪で殆ど聞き取れなかった。
「教会」「総統府(ガバメント)」「エルル」といった言葉の断片だけがかすかに聞こえる。
受話器をオペレーターに返すと『S』はやけに深刻な顔で言った。
「前も言ったがワシには副業が有ってな、そっちの方が忙しくなってきた。
ギアは道具だ。
道具は使ってやらないとあっという間に錆びつく。なのにワシはたかがギア一機の面倒を副業にかまけて見てやれないでいる。
だったら面白い使い方をしそうな若いヤツにくれてやった方がギアも喜ぶだろう」
「だから何で俺なんだよ!?
キスレブならプロのパイロットだっているし俺より強いアリーナのバトラーなんか一杯いるだろが!」
それも、俺やハマーのような身体に獣相のある亜人ではない者たちが。
「お前が一番面白そうな使い方をしてくれそうで、しかも若くて、ギアを駆らせてみたい、賭けてみたいと思ったヤツだからだ。
それじゃ不満か」
「『S』、あんたは自己満足したうえに勝ち逃げかよ」
「違うな、試合はまだこれからだ。
ギア一機でどんな面白い事が出来るか…ワシより面白い事をやって見せて見ろ、リカルド・バンテラス」
こうして。
俺はいきなりギアのオーナーになってしまってた。
あの変なオッサン、今は結構なジジイになってるはずだが『S』は俺の名前を知ってたくせに『S』も含めて1文字ネームでエントリーしてた奴ら、連中は自分の正体を絶対バラさないしハマーや仲間もたどれなかった。
ガキだった。
あのころは本当に、ハマーも俺も只のガキだった。
うまい具合にハメられてた、と気付いたのはバトリングのキングにまで上り詰めて総統から直接、首輪を外すための鍵を、解除コードが打ち込まれているカードを手渡された時だ。
亜人には触れるのもイヤだと言わんばかりに填められている白い手袋。
手品のように手のひらに現れ、差し出されたカード。
前に見た時より、少し古びたものの見覚えがあるカフス。造形はキスレブの紋章。
俺は受け取ったカードをその場で叩き割った。
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[Title] Insurance Money
[Post Script]
実はゲームのキャラの中ではキスレブのジークムント総統が一番好きだったりする。総統とリコの話、もっとちゃんと作って欲しかった、と白四角社へ怨念念派。
こんなむさ苦しい話をポスターや何かをイロイロ貰っているEasyGurdenのBBSへテロった。これぞ恩を仇で返しまくり。
書いている間、弐号の手元に氾濫していた『Armored Core』の公式資料集だのBGMで壱号(書いているのがxenogearsテロもの、だとは知っていた)から「……ナニ書いてんだよ…」と怪訝な目で見られたと記憶。
タイトルのネタは、『Armored Core』のサントラから。
『Armored Core:ProjectPhantasma』のオープニングで使用されている曲。
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