「欲しいモノがわからないままでいれば、欲しくもないモノに囲まれて生きなくてはいけなくなる」
上記のテロップの後、映像スタート。
録画中なのか、画面右下に『REC』の赤文字が点滅。
録画されていく光景。
窓の無い建物の屋内。
白くペンキで厚く塗りつぶされた鉄の壁で囲まれた部屋。
目の前に角度が急過ぎて「梯子」と言った方が適切な階段。階段も白いペンキで塗られている。
天井からの照明は蛍光灯。
平坦な照明のため、昼なのか夜なのか判らない。
雰囲気、海上自衛隊の、護衛艦の内部に似ていなくもない。
白くペンキで塗られている部分、所々褐色のオイルか何かの汚れが付着。
錆なのかもしれない。
で、両腕を広げた幅の階段が有るのだが、踊り場のような所の床に子供(赤ん坊)の、平面化した死体が張り付いている。
服(白い、キルティング地のジャンプスーツ)着たまま。
姿勢はうつぶせ。
スーツからはみ出した肉の部分は赤黒く変色。腐っているわけでばない。
何故か、血痕が無い。
一回、映像が切れる。
「好きなコトを知らないままでいたら、好きでもないコトをして生きていかなくてはならない」
上記テロップの後、映像スタート。
録画が続いている。画面右下の『REC』のマーク、点滅したまま。
先刻、出た床に張り付いていた子供の死体を越えて、階段を昇る。
ホールのような、広い部屋に人が居る。薄汚れた、元は白かった検査服のような服を着た人間たち。
男か女か、判らない。
数人居るが、誰も彼もが第二次世界大戦時、アウシュビッツに収容されたユダヤ人のようにやせ衰え、頭髪が無い。
露出している肌に、褐色の肉腫が有る。
虚ろな、何もかもを諦めているような生気の無い眼。
時々、悲鳴が聞こえる。
「俺に…染しやがって…」
悲鳴。
「オマエも道連れに…」
服が、引き裂かれる音。
悲鳴。
命乞い、あるいは祈りの声。
殴打。
「私たちはみんな…」
悲鳴。怒号。罵声。
殴打の音。
肉が潰されるような音が時々混じる。
梯子のような階段が壁際に有ったので更に昇る。
途中に風抜き用の窓。ガラスは無い。鉄格子がはまっている。外は暗い。闇黒。音も無く、風も無い。
止まった空気。
匂いも無い。
絵像が、再び切れる。
「やりたいことを知ろうとしないなら、やりたくもない仕事で喰っていくことになる」
テロップの後、映像スタート。
まだ録画が続いている。誰が、カメラをかまえているのか、謎。カメラを持つ者は初めから全くフレームには入ってこない。爪先も出ない。周囲のもの、撮られていた者が注意をはらったり注目している気配も無い。
階段を登りきった先。
先刻の喧噪とはうって変わって静か。
小さな部屋。手術台のような、ライトに照らし出されたテーブルがある。
テーブルの手前に、白衣の男が一人、居る。
台に向かったままで、こちらには背中を向けている。
作業をしているらしいが台の上は見えない。
「これからは、お前たちの時間だ」
作業をしている男の手にも先刻、見た褐色の肉腫。
台の上にいたのは子供の姿をしたロボット。
「コレが、多分最期のモノになる…コレを過去に跳ばした後、お前を過去に送る。
我々は失敗した。
選択の余地も無く、滅びを待つ世界に自らを追い込んだ…。
最期にお前を、過去に送る…世界を、時間の流れを、人間達に干渉し、今居るこの世界に近づかないようにするんだ」
男が台の上の子供の姿をしたロボットを起動。
ロボットが起動させられた瞬間、ロボットは台の上から消える。
転送、完了。
台を向いていた男、カメラに向かう。
肉腫で崩れた顔が写る。
「録画を終了するんだ。
録画データが入ったカートリッジはそのまま持って行くがいい。
自分が何のために、何をなすべきかを決して忘れるな」
男の手が、カメラに延び、スイッチが切られたらしい。
画面が暗くなり、右隅に出ていた『REC』の赤文字の替わりに『STOP』の文字が出る。