48=2*2*2*2*3
48→1.2.3.4.6.8.12.16.24.48
※ 96経由で来る事を推奨 ※
意識が引きずり込まれた先はタールのように絡み付く闇。そこにはもう理性や狂気、音や匂い、そして時感さえ無かった。
『そのまま狂いなさい。狂い死になさい。…快楽と云う貴方には最も相応しくなく、今の貴方に最も相応しいもので───っ』
そう聞いた覚えが、微かにある。
それから?
暗闇。目を開けているのかも定かでは無く、手足の感覚も無い闇。重い。
俺は死んだのか?
陶器が触れ合う澄んだ音。
すぐそばで、人間が動く気配がする。誰かの手が触れて肩が揺すられている。そんなことが出来る人間は、今は一人しかいない。
自分の躯を玩弄していた・・・恐らく今も続けている・・・その男。
スタイン。
意識が、引き戻される。
こじ開けた目、視線の先。光量を抑えた間接照明の中、すぐ目の前にスタインの顔があった。
意識せずに手を、いつものように動かす。
「穏やかではありませんね」
ジェシーの手の中に、まるで手品のように現れたオートマチックを目にしても笑顔を浮かべたままスタインは言った。
「紅茶を飲んで眠り込む人間というのも珍しいですが、うなされているのを起こした礼に銃を突きつける貴方は珍しいと言うか・・・実に興味深い人間ですね。
起こされたのを激怒するくらい、良い夢を見ていたのですか?」
「とぼけるな」
「それはこっちの台詞ですよ」
スタインの笑顔に戸惑いの色が混じる。ゆっくりと両手を上げて言う。
「貴方が私を嫌っているのは知っていましたけど、今の貴方が一体、何に対して怒っていて私に銃を向けるのか皆目見当がつかないのですから・・・」
「しらばっくれるな!」
薬で脱力した身体。
縛り付けられた両手。
肌を走ったナイフの痛み。
苦痛は、堪える事が出来る。だが苦痛を上回る毒の様な感覚・・・おぞましい行為とそれに伴う苦痛と共に全身を蝕む『快楽』。
幻ではない、鮮やかな感覚と記憶。
「撃つのは構いませんが・・・トリガーを引く前に、是非とも周囲を『落ち着いて見回して』欲しいですね・・・」
銃を向けたまま、ジェシーは目だけ動かして素早く周囲を確かめた。
場所はあの悪趣味な寝室ではなかった。
ゲブラーの、高級士官用の休憩室。ソファーに座しているジェシーの前、テーブルの上には冷めた飲みかけの紅茶が注がれた陶器のティーカップ。
服には切り裂かれた跡はおろか、乱れさえも無い。目の前のスタインの服も同様だった。
ドライブや薬剤から醒めるような頭痛や吐き気といった感覚や痛みも無い。
夢、か・・・?
出てきた時と同様に、ジェシーの手の中から銃が消えた。
「・・・済まない、寝ぼけていた・・・らしい」
「次期ゲブラー総司令の無防備な寝顔と慌てふためく様に免じて、今回は『無かった事』にしますよ」
笑いながら、スタインは言った。
仮面のような笑顔だ、とジェシーは感じた。何かを隠している笑顔。
だか、それは今に始まった事では無い。そしてその仮面を剥がす気もない。
今は。
「そう、初回はこんな所でしょう・・・」
罠を仕掛け、獲物は掛かった。掛かった獲物を料理する時間はたっぷり有る。どんな方法で、どんな料理を作るかというのを考える時間も。
「ジェサイア、貴方にはもっと楽しませてもらわないと、ね・・・」
呟きと押し殺された笑い声が、無人となった休憩室に響く。
休憩室にスタインの笑い声が響いている頃。
「ジェシー、あなた怪我してるの?袖口に血が付いているわ・・・」
妻ラケルの指摘で、ジェシーは凍り付いた。
改めて見た己の手首には赤い跡。まだ新しい擦り傷。
奈落の闇へ堕ち続ける悪夢はまだ始まったばかり。
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■ 正面玄関