※以下はサークル 音楽機械劇場 が発行した「ESPGALUDA
-エスプガルーダ-」の二次創作同人誌『M-BUTTERFLY』のサンプル用文書です。
無断流用、禁止です。
現物はイベントもしくは通販でお求め下さい。
雨が降っていたのを覚えている。
冬の冷たい雨で、細かい雨粒が隙間という隙間から入り込み否応なく体熱を奪う。
べったりと冷たく、躯に張り付いた服が気持ち悪くて仕方が無かった。そしてもっと気持ち悪い事は、躯が冷えきって硬直していて、指先を動かす事もままならない。
「素晴らしい」
賞賛の言葉。一体誰に向けられた言葉なのだろう。
「完全機械化武装のタイカ兵、3個中隊を一体で屠る…素晴らしい戦力だ。エスプガルーダ」
エスプ…ガルーダ?
屠る?
「おまえがやった事だ。エスプガルーダ」
足に当たる甲冑の固い感触。泥とも肉とも血ともつかないぬかるみに沈む兵士たちの死体、死体、死体。顔が残っているモノは一様に眼を見開いたまま、瞬きもせず雨に濡れている。
エスプガルーダ…それは俺の事なのだろうか…?
「そのとおり。お前が此奴等を屠った証拠に…見よ。エスプガルーダの力を当てられて死んだ者たちの死ぬ間際の感情…魂魄が聖霊石に結晶化しておる」
声の源。そこには空中砲台の上。
男が居た。黒く染められ艶が出ないように処理された、防水の強絹。上質の戦場用の外套を纏った男が。
彼が指し示した先。
赤とも褐色ともつかない泥濘の中に浮かぶ、鮮やかな緑色の結晶…。
見上げる高さに居たその男が、屍の山の中に降り立ち、手を…何かを受け止めるかのように拡げる。緑色の結晶が男の掌の上に集まり、指先ほどの大きさの結晶になる。
彼は道ばたにたまたま面白い石があって、それを見付けたかのような風情で緑色の結晶を指先で弄ぶ。
泥の中から集まり、出来たはずなのに、結晶にはひとかけらも泥が付いていない。
寒い。
べったりと張り付いた、元は白かった『施設』での服が雨と血を吸って重い。サンダルはとっくに脱げていて、泥が足の指の間に軟体動物のように入り込んでくる。氷の粒が当たる。
「馴らしも無しに実戦投入はどうかと迷わないでも無かったが…今回は正解だったようだな。
お前が最初の成功作。完成体のエスプガルーダだ」
ツイ、と男の指が動いて顎を捉えられた。
目の前に男が集めた聖霊石が有る。
暗くて冷たい冬の雨の中だというのに、淡い光を放つ結晶。
結晶が唇に当てられる。暖かい。
「お前にとって必要な物だ…これからの人間にとっても」
冷たい冬の泥濘の中で摂った聖霊石。
生物の感情、記憶、魂魄が結晶化したもの。
まるで普通の、生物…ヒトのように舌を延ばして口から摂り込む。
ずぶ濡れで、生臭く、冷えて、指先さえまともに動かず、不快で、疎ましかった躯が少しだけ、暖まる。
暖まって、少しだけマシになる。もっと、聖霊石が欲しい。そうしたらきっともっと暖まり、この不快なさがましになるに違いない。
なのに、聖霊石は与えられなかった。糸が切れた人形のように躯が硬直したまま動かない。足下の死体には唇に与えられたのとは違う、細かい聖霊石が結晶になっている。すぐ足下。なのに、手を、延ばすことが出来ない。
「お前のその力。その力を諸国と人々に知らしめ、恐怖と畏怖の感情を蔓延させるのだ。速やかにそして残虐に破壊と殺戮を行え。偽りの平和という惰眠を貪る諸国の人間達を叩き起こし、恐怖と畏怖の感情、魂魄を聖霊石として結晶化させろ」
何故?
「真なる平和、安息で人々を充たすために」
言葉。
強い意志、意欲、欲望が籠もった言葉。言葉が乗る声。
今、彼を撃ったら、彼の言葉や意思は聖霊石として結晶化するだろうか。
「エスプガルーダ、お前は最初の成功例。特別であることの証に、他のものとは違うということを示すためにも名前が要るな」
名前…?
何だろうと訝る間に視界が、陰る。
屍の山、血肉の生臭い匂いとは異なる、上質の布の感触と焚きしめられた香に包まれていた。
余程、上機嫌なのか服が汚れる事さえ厭わず彼は血と泥まみれの俺を抱き上げて囁くように告げた。
「なんといっても、お前はエスプガルーダでも
………
なのだから、アゲハ」