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14=2*7
14→1.2.7.14

※ 28を先に踏んでから来て下さい ※



















 降りてきたのは、まるで血の通っていないような冷たい口唇だった。
 なのに。

 濃厚な血の味がする。





 冷たく冷えた唇はただ触れるだけで、舌を挿し込んで相手の歯列をなぞるとか、応えるとか。
 技巧の応酬のかけらも無い。
 唇の形を舌でなぞり、掠めるだけの行為。
 僅かに、俺が応じると触れ合っていた唇を離す。
 彼女の顔に浮かんでいたのは戸惑いの表情。

 何が起こったのか確かめ、思い返すように指で彼女は自分の唇をなぞる。
「・・・どうしてこんなことを?」
 うっかり力を込めれば折れてしまいそうなほどに細く、柔らかな身体を。
 そっと抱きすくめて質問に答える。
「泣いている子供を慰めて眠らせるにはこうするんだ」
「わたしは・・・・・・泣いてなんかいない」
「そうか」
 睦言と言うにはぎこちない、不器用なやりとり。
 沈黙したまま触れ合った。

 腕の良い職人が丹念になめしたような男の肌は熱く、繊細な陶磁器のようにきめの細かい少女の肌は冷たく。まるきり正反対。

 まるであつらえたように、互いの有していないものを有している肌。
 塞がって間もない左肩の傷と傷を境に明らかに感触が異なっている肩から腕の方へ触れながら彼女は言った。
「なぐさめが必要なのは貴方の方?」
「かもな」
「・・・『彼』がいなくなったのが哀しい?」
「ああ」
 肯定。
 『彼』と互角に殺しても死なないのではないか、と錯覚させるほどのふてぶてしさからは想像できないような弱々しい回答。

「だったら・・・泣けばいい」

 子供のように。

 そう言って彼女が見た顔は僅かに戸惑い、哀しげだった。
「大人になるとそれが出来なくなる」
 苦笑を浮かべながら言葉を紡いだ唇に、彼女の方からそっとくちづける。

「オイ・・・」
「泣いている子供をなだめるにはこうするのでしょう?」
「俺は子供じゃねぇぞ」
「外見はね」
「ついでに言うと男だ」
「知ってる」
「わかってて、してるのか?」

 誘っているのか、と暗に問う。
 今生きて、確かに此処に居るということを感じておきたいだけ、と答えが返ってくる。
 静かな答えに言葉が続く。

「沢山のヒトが死んでる。ここは、今のシェバトは死ばかり・・・。
『彼』もいない。明日はわたしも死ぬかもしれない。

 ひょっとしたらもう死んでいるのかもしれない」

 明日、という日々が永久に続いていくものでは無いと知ってしまっている者。
 命の儚さを身をもって知っているからこそ。
 どんな方法でも己の生を、存在を確かめようとする彼女。

 刹那的。

 『明日』と言う未来よりも『今』という瞬間を求める子供へ。
 なだめ、あやすようにくちづける。

「無茶苦茶な子供だな。おまけに子供らしくない言動だ・・・」
 囁き、今度は深く、貪るようにくちづける。

 先刻から、抱きすくめて体温を分けているのに未だに彼女の唇は冷たく、血の味がした。

 彼女が流した血。
 彼女が浴びた、助けられなかった仲間、知人、友人、家族。
 『彼』の、血。

 俺の血も混じっているのかもしれない、とふと思った。

 命の味。




 生きているのだと。

 時に鉄錆の味を噛み締めながらも、まだ生きなくてはならないのだと、確かめたくて。

 泣いている子供をなだめたくて。

 体温を分け合いたくて。



 抱き合い、互いの肌を隔てる服や包帯をもどかしく取り払い、じかに触れ合いながら頑丈さだけが取り柄の医務室の固いベッドに倒れこんだ。



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[Title] Tranquilizers

[Post Script]

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