42=2*3*7
42→1.2.3.6.7.14.21.42
※ 28を踏んだ後、14を踏んでから来てください ※
母親が自分の子供、特に赤子に微笑み、愛情を注ぐのはどうしてか?
「母親だから当然にして自然な事」と言う者もいるかも知れないが本当は違う。
母親には自分の子供の笑顔や嬉しい様子を見たり感じるとエンドルフィンやドーパミンなどの麻薬様物質が分泌されるシステムが体内に出来ているからだ。
自己が分泌する麻薬の中毒性。
子供と母親の間に確立された自己満足のシステム。
それが『母性』の正体。
母親は、自らが『母性』という快楽に浸る為に己の子供に愛情を注ぐ。
なぜか、腕をのばさなくても触れ合える距離でまどろんでいる男の顔を見ていて母性の事をわたしは思い出していた。
無造作に刈られた髪が汗で張り付いている額に触れ、額から目、頬にかけて走る疵跡を指先でたどる。
手術しなくては消えないであろう、疵。
痛々しい、疵が無かった時は一体どんな顔だったのだろう、と想像せずにはいられないような酷い傷痕。
まだ新しい疵。
わたしは傷つけたのと同じ指で疵に触れ、塞がっていることを確かめる。
同病、相憐れむ。
慰められたいから、相手を宥め、慰める。
わたしの目の前でまどろむ男とわたしの間にある関係。
関係は母親と子供の間に築かれる母性本能と言う名前の自己満足システムに近いものなのかも知れない。
目には触れない、同種の傷。
自分の中に在る『彼』を喪った哀しみ、空虚を埋めて欲しいから相手の中に在る同種の空虚を埋める。
自分の手では届かず、かといって放って置くことも出来ない空虚を。
己が快くなるために我が子に愛情をそそぐ母親と何処が違うのだろう・・・?
掛け布をよけて、露わになった首筋に触れる。
ここは医務室だというのに殆ど使われる事の無い旧区のため、体温計のようなちょっとした道具が置かれていない。手で触れて、体温や脈拍、息遣いを確かめる。
今ではもう顔も憶い出せない母が、遠い昔わたしにしてくれたように、触れる。
ナノマシンで半ば強制的に塞いだ傷と、『彼』から継ぎ足した左腕。
無理が祟って荒れていた呼吸、脈拍、体温も落ち着いてきている。
休息を取れば・・・もうわたしがつきっきりで看ていなくても、自力で回復し、動く事が出来る。
そしてわたしにはまだやらなくてはいけない事が残っている。
ベッドから音を立てないように抜け出し、床に散らかっているツヤの無い黒い服を身につける。
下肢に上手く力が入らない。
けれど、まどろむ男のものだった左腕を始末して『ジェサイア・ブランシェ』という男が死んだように細工をしないといけない。
わたしは服のスリットから有るだけの麻酔薬と栄養剤を取り出し、封を切った。
すぐ傍の男の肩口に押し当て体内に流し込む直前に、手を捕らえられた。
眠気のかけらも無いアイスブルーの目が咎めるでもなく、問う事も無く、在った。
手の中にある薬を打ち込む事よりも、もっと大事な。
何か、言葉が発せられるのを待っていたような気がする。
何か、言いたい事があったような気もする。
けれど、もう時間が無い。いつだって、足りない。
足りないくらいが、わたしには丁度良いのかもしれない。
「言っておくけれど」
沈黙と凍りついた時間に耐えられなくなった。
「わたしは貴方と寝たわけじゃ無い。
ジョシュアの、左腕に抱かれたの」
いぶかしげな色が目に浮かび、手首を押さえつけていた力が緩んだ。
緩んだ隙に、薬を体内へ送り込む。
即効性の薬液。
手首を掴んでいた手指がほどけ、瞼がゆるゆると閉じられていく。わずかに抗議と戸惑いの色が浮かんだアイスブルーの目が月が欠けるように瞼に再び隠れていく。
「おやすみなさい、ジェサイア・ブランシェでもなくジョシュア・リー・ブラックでもないヒト。
さよなら」
母親ゴッコは、もうお終い。
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[Title] 投影
[Post Script]
タイトルは『DARIUS外伝』のCDより。
CDの曲名が付いているパーツは具合の良いコードが思いつかなかったものと見て正解です。