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Tit for Tat





 気が付いた時には記憶が無かった。



 頭を打ったのか、動脈が脈打つ度に鈍く痛む。
 痛みで目覚めた時は、消毒用のエタノールが匂う狭い部屋の作りつけのベッドで寝かされていた。
 躯に斬り傷と火傷。手当済み。
 所々、塗料が剥げて錆びの浮いた壁。天井には剥きだしのパイプが走っている。
 背中から伝わってくる規則正しい振動。何かの乗り物の中らしい。
 狭い部屋(医務室だ、と後で教えられた)には俺の他に歳の頃が13,4歳ぐらいに見えるこまっしゃくれた感じの娘っ子(髪と虹彩はダーク・ブラウン)とうさんくさい、としか言いようのない男が1人。
(室内なのにツバ広の帽子にサングラス、上半身裸の上にレザーのロングコートを羽織って色は全部黒なのだから、うさんくさいとしか言いようがない)

 ベッドから躯を起こして
「お前ら、誰だ?」と訊いたら2人はそろって顔を見合わせて、男の方が言った。

「自分の名前、フル・ネームで言ってみな?」

 名前どころか、生まれた場所、親の顔、俺の年齢。
 当たり前に知っている、覚えている事を思いだそうとしたが、頭の中に在ったのはのっぺりとした灰色の、明るいとも闇いとも言い難い空白。

「わからない、俺はダレで、お前らはだれだ」と。
 正直に答えて最初の質問をすると、今度は娘っ子の方が俺を指さして満面の笑みを浮かべ「おにいちゃん」と即答した。
 あっけに取られていると、彼女は黒づくめの、まるっきりカラスのような男の方を指して「おにいさん」と小さい子供にものの道理を説く、それこそ「太陽が昇るのは東から」と当然の事を言うように言い放った。

 嘘くさい、と思ったが。
 真実では無い、と決定する根拠も無い。
 根拠となる記憶は、空漠のままだ。

「ひとまず、お前さんの剣は返すぜ」
 丸椅子が一つ入れるのがやっと、な狭い部屋だ。さっきから立ったまま様子を見ていた男が妙なモノを俺によこした。
 形だけ見れば剣のようだが、厚みの有る刀身に有るべきはずの『刃』が無い。鉄の板きれに柄に似たグリップが付いている。剣なら、切っ先にあたる部分は水平と僅かに丸みを帯びた、角の落とされた直線で構成されている。
「剣だ」と言って男は俺に渡したがコレは『斬る』ことも『突き刺す』ことも出来ない。
 せいぜい、鈍器として使うのがやっと、なナマクラだ。
 だが、グリップは吸い付くような感触で怖ろしく手に馴染む。
 手が、グリップに併せているのか、グリップの方が手に併せているのか。
 多分、コレは俺のモノなのだろう。
 剣なのかどうか、どうやって使うモノかは思い出せないが。
「…俺のだ、と思う。手に馴染みすぎる」
「それだけ判ってりゃ、ノー・プロブレムだ。
 ひとまず、お前さんの部屋と此処での基本ルールを教えておく」
「基本ルール?」
「別に難しいコトじゃない。

 『して欲しい』と思うコトを相手に『して』やるコト。
 何かされたら同じコトを相手にしてやるコト。

 OK?」
 唇の端を歪めて、どこか楽しげな人をくったもの言いで男は言った。
 サングラスで眼が見えない。考えが読みにくい。
 おまけに、どうやらコイツはオレが思い出せないオレのコトを知っている気配がある。
「こたえは?」
「…わかった」

 基本ルールは解ったが、コイツはどういった種類の人間なのか、見当がつかない。
 訊いてみたいが、とらえどころが無い。表情が読みにくく、つかみどころが無さ過ぎて弱みに付け込むのか恩を売りつけるつもりなのかも読めない。

「ま、メモリーが無くなったなら、いつか思い出すさ。いっそのこと一回死んで黄泉帰ったつもりで新しく憶えりゃいい。それだけのコトだ。あまり、悩まないことだな。
 躯、動くなら案内ついでに此処のコト教えとく。訊きたい事とか、有るか?」
「…さっきの娘っ子が言っていた『おにいちゃん』と『おにいさん』ってどういうこった」
「知りたいか?」
「ああ」
「だったら自分で考えて、適当な答えを知らせろ」
 基本ルール、聞いただろ?と背中越しにぬけぬけと言う。
 人をくった答え。

 敵か味方か、判然としないが。
 コイツにだけは、弱みを見られたくない。



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 ここまで読んで、続きが知りたいと思った方へ。

「 続きが読みたかったら、続きを書いて(『描く』、も可)弐号に見せる事 」

 『して欲しい』と思うコトを相手に『して』やるコト。
 何かされたら同じコトを相手にしてやるコト。
 Tit for Tat、ということで。

 見せてくれた方にのみ、弐号バージョンの『続き』をお見せします。